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2017.07.12
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☆アキラとあきら・池井戸 潤
・徳間文庫
・2017年5月31日 初版
・2017年6月25日 4刷
(2006年12月号〜2009年4月号まで、「問題小説」に連載されたものに、大幅に加筆・修正したオリジナル文庫)

♣︎山崎 瑛 (あきら)= 町工場経営者山崎考造の長男
父が経営する町工場が倒産。瑛は母と妹と3人、夜逃げ同然に河津から母の実家を頼って磐田へ転居。倒産した会社の後始末を終えた考造は磐田で再就職し、家族に落ち着いた日々が戻ってきた。進学高に通う瑛だったが、家計のことを思うと大学へ行きたいと言い出せなくて進学を諦めようとしていた。
考造の再就職先である西野電業は取引先から巨額の損害賠償を要求されていた。功を焦った社長の息子である専務が招いた事態にもかかわらず、理不尽にも考造が責任を負わされ退職を迫られていたのだ。そんなある晩、磐田銀行の融資担当者工藤が山崎家を訪ねてきた。「専務の書いた杜撰な経費削減計画書では支店長に融資を認めさせることはできない。是非山崎さんから、将来を見据えることのできる本物の計画書が欲しいのです」といった。自分の工場を倒産させて以来、銀行に不信感を抱いていた考造だったが「何とか西野産業さんの力になりたいのです。お願いします」。考造は長い間じっと工藤を見据えていた。やがて工藤と二日がかりで練り直した計画書が完成、支店長の決済がおり西野産業は窮地を脱した。
礼をいう考造に速水支店長は意外なことを言った。「あの工藤は、息子さんと同じ高校を出て一旦東京の大学に入ったが、家業が倒産して中退、高卒の資格でウチの銀行に入ってきた。息子を大学に行かせてやりたいと言う山崎さんの言葉を聞いた彼は、是非そうさせてやりたいから頑張るんだといってました」と。父からその話を聞いた瑛の胸には安堵と共に、再び開かれた将来への期待と不安が入り混じっていた。


♣︎海堂 彬(あきら) = 海運会社経営者一族の御曹司
古くは水産物を扱う商家として栄えてきた海堂家は、海運業に進出して大成功し、日本の海運業の一翼を担うほどの企業へと急成長を遂げた。それは、彬の祖父雅恒の功績が大きい。雅恒は東海郵船を3つに分け、長男である、彬の父一麿(かずま)が親会社である東海郵船、次男を東海商会、三男を東海観光の社長とした。東海郵船の会長職に退いた雅恒はあっけなくこの世を去った。東大に進学し、父の後を継がないと決めた彬は就職先の選択で迷っていた。ゼミの先輩である産業中央銀行の立花から聞いた話は参考になったし、銀行の仕事についておおよそのイメージはできたが、実感を伴っていなかったのだ。
それから間も無くのこと、産業中央銀行の人が見えているからと呼ばれた彬が応接室入ると、長椅子に2人の東海郵船担当者がかけ、真剣な眼差しで不機嫌な父と対峙していた。
「君たちに何がわかる」その時父は吐き捨てた。「銀行はいつもそうだ。攻めようとすると金を退く。守ろうとすると金を貸すから積極経営をしろという。一体君たちの本音はどこにあるんだ」疑心にみち、敵愾心すら感じられる態度で、ふたりの行員に冷ややかな眼差しを向けている。どうやら安藤らは、父が要請した支援に色よい返事をしなかったらしい。「フェリーはやめましょう、社長」父に向けられた真剣そのものの安藤の眼差しは、まさにビジネスの一線にいるものの厳しさと聡明さだ。「いま東海郵船が、100億もの金を投資すべきはフェリーではない。これからは旅客は伸びない。安い労働力を求めて各地に国内メーカーの工場が乱立することになる。その物流を押さえましょう。いまがチャンスです」安藤は真正面から父を見据えた。既存事業の採算を詳細に分析した資料を取り出して広げ、調査部の資料を元に熱心に話した。船種は?と問う父にバラ積み船を2隻とコンテナ船を1隻と答えた。果たしてそれだけのトン数を埋めるだけの商材があるのかと問う一麿に、安藤は、間も無く深圳に工場設立を発表する社名を告げ、「そのうちの2隻を専用船にしてくれるのなら5年間、抱えるといっている」と答えた。安藤の説明は続き、父の黙考が続く中、室内はまるで作戦会議のような緊迫感に包まれた。会社経営の根幹に関わる部分に銀行員がここまで真剣に踏み込むのか ・・・。彬は驚きを禁じ得なかった。

♣︎立花耕太=東大卒、産業中央銀行人事部、昭和44年4月入行、20年目
母校である東大に恩師を訪ね、産業中央銀行を志望している学生のハガキを見せた立花に、教授は「この中にピカ一がいる」と言った。
優秀な学生を採用できたお礼と報告に恩師を訪問した産業中央銀行の立花は、教授にいわれ、帰りに別の校舎に立ち寄った。そこには、産業中央銀行の安藤が講師を依頼された経営戦略セミナーの成績が発表されていた。講師5名の評価を集計した成績のトップには「山崎瑛、経済学部4年」とあった。教授がいったピカ一は彼のことだったのだ。
しまった ーーー!研究科棟を走り出た立花は、ハガキに書かれた山崎瑛の連絡先番号にかける。電話がコールを始めた。「出てくれ。頼む、出てくれよ」立花は祈りにも似た思いで、念じた。

この4月に入行してきた新卒の新入行員は約300名、産業中央銀行では毎年3週間に及ぶ研修を行っているが、その目玉が、最後の5日間をかけて行われる融資戦略研修である。
新入行員が3人1組になって実践に近い取引データをもとに、金を貸すか貸さないかの与信判断の優劣を競う。3週間の講習の中で、新入行員たちは、このプログラムがいかに重要視されているか、またこの成績がその後の進路にさえ影響を及ぼしかねないことを分かっていた。新人に課せられた壮絶なダービーが始まったのだ。全クラスの稟議書は細かく採点され、ファイナルに進む上位2チームは、海堂彬と山崎瑛のチームに決定した。
2つのチームのメンバーが紹介された。
「まず、海堂瑛君」
対決に立ち会う本店融資部長羽根田一雄は、目を細めて立ち上がった男を見た。すらっとした長身だが線の細さは微塵も感じない。落ち着き払って会場の聴衆を見つめる様は、将来の幹部候補であることをはっきり印象づけるものだった。
「山崎瑛くん」
不思議な男だな、と羽根田は思った。立ち上がって羽根田に会釈した男は、何か温かい魅力に溢れているような気がしたからだ。優しさのようなものが滲み出ている男だった。
海堂彬と山崎瑛。彬と瑛、か。アキラ対決だな。名前だけじゃなく、2人に共通しているのは、「目」だと羽根田は思った。

やがて、海堂彬は本店、山崎瑛は八重洲通り支店に配属となり、2人はバンカーとしてのスタートを切った。




去年の8月に読んだ「陸王」以来、一年ぶりの池井戸潤の作品でした。
このところ読みたいと思う本に出会えなくて困っていましたが、文句なしに面白く読み応えがありました。出版されて日が浅い作品のため、内容の紹介はここまでに留めました。

WOWOWで放送がはじまり、第一回は無料だというので見て見ました。斎藤 工が山崎瑛、向井理が海堂彬でした。うーん、最初だけ見ただけでいうのもなんですが、読み終わったばかりの私には、画面から受ける印象がなんとも安易に見えて、スイッチを切ってしまいました。

そんな風に感じた理由はなんだろう?と気になっていましたが、フト気がつきました。1番の原因はもしかしたら羽根田融資部長が「2人に共通するもの」と感じた「目」ではないかと・・・。

♣︎過去に読んだ池井戸潤作品 インデックス

2016年8月25日 → 陸王 ・ 池井戸潤
2016年3月29日 → 不祥事
2015年12月5日 → 下町ロケット(ガウディ計画)
2015年3月28日 → 銀翼のイカロス
2014年1月26日 → かばん屋の相続
2013年12月9日 → ようこそ、わが家へ
2013年9月7日 → 株価暴落 & シャイロックの子供たち
2013年8月31日 → 仇敵
2013年8月29日 → 果つる底なき
2013年8月27日 → 最終退行
2013年8月25日 → 銀行総務特命
2013年8月21日 → 民王
2013年8月13日 → オレたち花のバブル組 & ルーズベルトゲーム
2013年8月10日 → 鉄の骨
2013年8月7日 → 空飛ぶタイヤ
2013年8月4日 → オレたちバブル入行組 & 七つの会議
2013年7月30日 → 下町ロケット





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Last updated  2017.07.12 21:10:37
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