カテゴリ:本
☆使命と魂のリミット・東野圭吾 ・角川文庫 ・平成22年2月25日 初版発行 ・2006年12月に新潮社より刊行された単行本を文庫化したもの 帝都大学病院研修医氷室友紀。彼女の父、氷室健介は胸部大動脈瘤切除の手術がうまくいかなくて、友紀が中3のとき他界した。友紀は母の百合恵に「医者になって、お父さんみたいな人を助ける」と宣言した。彼女は、帝都大医学部を卒業後、内科、外科、救急の研修を受け、現在は心臓血管外科で研修中である。友紀の最終目標である部署だ。 友紀が心臓血管外科に移ってきて既に何人かの、父と同じ大動脈瘤患者を診た。彼らが手術を受ける時の緊張感は特別に大きい。幸い、全ての手術が成功、家族や本人の様子を見ると、心の底からほっとする。しかし、それと同時に彼女の胸の内では、全く別の思いが首をもたげてくる。 父の手術の執刀医、心臓血管外科の西園陽平教授は、その道の権威であり、現在の友紀の指導医でもある。なぜ、それほどの名医が自分の父親だけ救えなかったのだろう。友紀は父の手術について、その西園教授に対してある疑いを持っていたのだ。 研修医の仕事は激務だ。夜勤明けの朝、朝食を取ろうと病院の前の喫茶店へ向かった友紀が、店の前に繋がれていた犬の首輪に挟まっている紙片を見つけた。 それが1通目の「脅迫状」だった。内容は「帝都大学病院関係者に告ぐ。度重なる医療ミスがあるにも関わらず病院は全く公表していない。………即刻全てを公表し謝罪せよ。さもなくば我々の手によって病院を破壊する。………警告者」 2通目は、病院の受付で発見された。 3通目は病院内を見回っていた刑事により、病院の男子トイレで発見された。刑事が個室のドアを開けた途端、仕掛けられていた発煙筒が吹き出した。個室内に置かれていた脅迫状には「2度の警告状に対して誠意ある回答がない。マスコミにも医療ミスを隠蔽している。……不本意ではあるが、実力行使の模擬実験を行うこととした。この次は発煙筒ではない。警告者」と書かれていた。いずれの脅迫状も一般人の目に触れやすい形で置かれていた。 相次ぐ脅迫状に、入院患者は転院若しくは退院して行き手術も見送られているなか、アリマ自動車社長、島原総一郎の大動脈瘤の手術だけが予定通り行われることになっていた。 氷室友紀が抱き続けている西園教授への疑い。欠陥車が原因で婚約者を失ったと信じる男性の、欠陥があることを知りながら放置したアリマ自動車の島原社長に対する恨み……。脅迫状を送りつけた犯人を捜す推理小説ではなく、複雑に絡み合う登場人物の人間模様を描いた小説。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ♣︎氷室夕紀 昨年帝都大学医学部を卒業。研修医。内科、外科、救急の研修を受け、現在は心臓血管外科。卒業後最低7年の修練期間が必要だ。 ♣︎氷室健介=友紀の父。元警察官。夕紀が中3の時、胸部大動脈瘤切除の手術がうまく行かなくて他界。 ♣︎氷室百合恵=友紀の母。 友紀は母の百合恵に「医者になって、お父さんみたいな人を助ける」と宣言した。 ♣︎西園陽平 帝都大学病院教授。生れつき心臓に疾患を持ち、何度となく手術を受けた。医学に恩返しがしたいという一念で心臓外科の一線で活躍してきた。そんな西園をM医師は尊敬しているという。西園の長男、稔はスーパーで万引きした商品を仲間と山分けしているところを見つかり、友紀の父健介の乗ったパトカーに追われバイクて逃げる途中にトラックにぶつかり死亡。 ♣︎譲治 彼は帝国大学病院の看護師と知り、真瀬望に近付いた。譲治の恋人、春菜はアリマ自動車の欠陥車による事故の唯一の死亡者だった。春菜は建設中のビルを取材中、高さ10mの足場から転落して頭を強打。救急車で病院に運ばれる途中、欠陥で立ち往生していたアリマ自動車の車に進路を塞がれ迂回。そのため手遅れとなり死亡。救命士も医師も最善を尽くそうとした。彼らにそれをさせなかったのは、じつはたった一人の老社長が自分の使命を忘れたことが原因なのだと信じていた。 ♣︎島原総一郎 65才。アリマ自動車社長。大動脈瘤の手術を受けるため、帝都大病院に入院中。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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