カテゴリ:本
☆架空通貨・池井戸 潤 ・講談社 ・2003年3月15日 第1刷発行 ・2000年3月発行の 「M1(エムワン) 」を改題 ♣︎辛島武史。35才。 一部上場の総合商社で証券アナリストとして働いていた辛島は、自社の旧態依然とした体質に嫌気がさし外資系企業に転職すべく退職した。ところがその企業が日本から撤退することになってしまい、これを機に辛島の人生の歯車は大きく狂ってしまった。妻とは離婚、現在は私立高校の社会科教師をしている。 ♣︎黒沢麻紀 辛島の教え子。父親が経営する黒沢金属工業の倒産を、何とか自らの手で回避出来ないかと必死で奔走している。 ♣︎安房正純=田神亜鉛社長。 黒沢麻紀の母親から学校に、父親が経営する会社が行き詰まり、麻紀を転校させたいという電話があった。麻紀は辛島が副担任をしているクラスの生徒である。辛島の前職を知っていた麻紀から、理由を告げずに社債のことなど不可解な質問を受けたばかりだった。 会社が不渡りを出したのだろうか。2回目の不渡りを出すと銀行取引が停止され、資金繰りが行き詰まり倒産する。電話が通じず、辛島は麻紀の家に向かった。麻紀は父親が押し付けられた田上亜鉛の社債を期限前償還してもらい、2回目の不渡りを回避できないかと考え、社長の安房正純に会おうと出かけたようだ。田上亜鉛の本社がある田上町は、中央自動車道を経由して東京から400キロ。麻紀を追って辛島が到着したのは、町全体が亜鉛産業一色に塗りつぶされた企業城下町だった。鈍色(にびいろ)の屋根と、煙突の煙で黄色くかすむ空、そして工業廃水で濁った川、町全体が亜鉛になってしまったように煤けた町だった。 安房社長に会えるまで帰らないという麻紀を置いて行く訳にもいかず、辛島もしばらく残ることにした。 町には、住民が「田上札」と呼ぶ「田上亜鉛協力振興券」が出回っていた。社債を引き受けた額に応じて「田上札」を配布し、社債の償還期限の5年後に円に替えてもらうことにはなっているという。中央に田上亜鉛の挿し絵が入っており、一万円札は茶色のトーンで、千円札は青みがかっていた。偽造ができないように精巧な作りになっていた。田上札は半年前から出回るようになり、仕入れ代金や、下請けや旅館、商店の支払いも田上札が使われていた。受け取らされる町の人々の表情は暗く半ばヤケ気味だった。もし5年後に田上亜鉛の社債が償還されなければ、たちまち町全体が立ち行かなくなるのだ。 *池井戸潤メモ 1963年生まれ。1988年慶應大学卒業、三菱銀行入社。1995年退職、コンサルタントとして再出発。1998年 『サーキットの死(88年)』『神が殺す(97年)』に続く3度目の挑戦作品『果つる底なき』で、第44回江戸川乱歩賞受賞。2000年、受賞後の第1作として『M1』を発行。2003年『M1』を『架空通貨』と改題。 この作品は、未だ作風もジャンルも定まっていない、池井戸潤の初期の作品。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2019.11.11 07:56:54
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