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2022.08.21
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☆草笛物語・葉室麟
・祥伝社文庫
・2020年9月20日 初版第1刷発行
・羽根藩シリーズ5

★羽根藩
寛永9年(1632年)。信州松本から転封され、九州、豊後羽根に五万二千石を拝領したのが、本書の舞台、羽根藩の始まりである(『蜩ノ記』より)。

赤座颯太は13歳になる。父の兵庫が江戸定府だったため、江戸で生まれた。何かあるとすぐ涙することから、泣き虫颯太と呼ばれていた。2年前から、世子鍋千代の小姓として仕えている。同い年の2人は不思議にうまが合った。鍋千代は剣も学問も格段に優れていたが、実力以上に持ち上げられることが多く、何事も不出来ながら正直者の颯太が心安く打ち解けらるのかもしれない。
流行病で颯太の両親が相次いで亡くなり、颯太は国許の藩校教授、伯父の水上岳堂に預けられることになった。鍋千代から餞別として、吉光の名刀(短刀)を授かった。吉光は京の粟田口派の名工で、相州の新藤五国光と並んで短刀の名手である。ただの遊び相手に過ぎないと考えているのだろうと思っていた鍋千代が、これほど自分のことを思ってくれていたのかと思うと胸が熱くなった。
「わたしも来年のうちに国入りするだろうから、その折にはまた会おう」と言った。大名の子が国入りするのは家督を相続して藩主となる時である。鍋千代が国入りすると聞いて、やはり颯太はほっとした。国元で側近になることはないだろうが、鍋千代の目の届く所に出仕できるのなら、やはり心丈夫だと思えた。

伯父の水上岳堂は、優しく出迎えてくれたが、あらためて颯太に向かうと、「まだ元服前の身で父母を亡くしたそなたは大変だとは思うが、ひとが生きていくのに苦難はつきものだ。その苦難とどう対峙したかでひとの値打ちは決まるのかもしれぬ。これからの日々は全て修行だと思って生きることだ」と、しみじみと言った。岳堂の言葉は颯太の胸に沁みた。颯太は相原村にある、藩の薬草園に預けられることとなった。百姓の子ら、3人の友ができた。

一年程すぎ、颯太は14歳になっていた。藩主良房が急逝し、世子の鍋千代が慌ただしく元服し、家督を継ぎ、名を吉通(よしみち)と改めた。吉通は国入りすると、直ぐに颯太を小姓として召し出し、相原村の薬草園から通うことを許した。吉通が薬草園から通って良いと言ったのには、彼なりの考えがあったのだ。吉通は野駆けと称し、小姓4人を引き連れ、度々城の外にでた。颯太の目を通して信頼できると見定めた、百草園の番人檀野正三郎、藩校教授水上岳堂などの話に耳を傾けた。颯太の百姓の3人の友とも交わり、信頼関係を築いて行った。聡明な吉通は、藩主としての自らがなすべきこと、進む道を探っていたのだった。

事件が起きた。藩主の若さを良いことに、己れが藩を支配しよう暗躍する、藩主一門の三浦左門を阻止せんと吉通は自ら立ち上がった。颯太を筆頭に、小姓はじめ彼が信頼する8名を引き連れ、真っ向から立ち向かったのだ。颯太は吉通から授かった短刀を持ち、命がけで、自ら左門に立ち向かった。
全てが終わったとき、若き藩主吉通がとった態度は見事であった。
傷だらけの颯太を案ずるように、順右衛門の娘、深雪がそっと寄り添う。深雪が傍に立った瞬間に、颯太は全ての痛みを忘れたのである。愛馬淡雪に跨る吉通を先頭に歩いて行く、若者たちの後ろ姿を、檀野正三郎と戸田順右衛門は見つめていた。
「順右衛門、われらはついに名君をいただくことになるのではないか」と言い、順右衛門は「何の、まだまだです。」といい、自分達が彼らの年齢だった頃のことを、しみじみと語り合った。

♣︎ 鍋千代=羽根藩世子。
藩主良房が急逝すると、家督を継ぎ、名を吉通(よしみち)と改めた。
♣︎赤座颯太
江戸では世子鍋千代の、そしてのちに藩主となった吉通の小姓として仕える。
父=赤座兵庫、母=鶴。
♣︎水上岳堂
羽根藩、藩校教授。颯太の母方の伯父にあたる。
♣︎藤林平吾
小姓仲間の1人。俊秀で知られている。
♣︎檀野正三郎
訳あって現在は薬草園の番人。戸田順右衛門の義兄。
♣︎檀野薫=正三郎の妻、戸田順右衛門の姉。
♣︎桃=娘
♣︎ 戸田順右衛門
鵙(モズ)と呼ばれ、恐れられている。未だ30前だが、噂では、過失を犯したものをあたかも鵙が獲物を狙うように苛烈に責めると言う話だ。

♡羽根藩(うねはん)シリーズ
1.蜩ノ記(2011年)
2.潮鳴り(2013年)
3.春雷 (2015年)
4.秋霜 (2016年)
5.草笛物語(2017年9月) 

♣︎葉室麟(1951年〜2017年)
北九州市小倉生まれ。西南学院大学卒。地方紙記者などを経て、2005年、「乾山晩秋」で歴史文学賞を受賞し、文壇へ。07年、『銀漢の賦』で、松本清張賞、2012年『蜩ノ記』で直木賞受賞。
「草笛物語」の単行本が刊行された3ヶ月後の12月23日逝去。享年66。



藩主、吉通。そして颯太のその後に期待が膨らみ、すぐにでも続編が読みたくなりました。けれど、悲しいかな、このシリーズはこれで終わりになってしまいました。作者の葉室麟さんが、この本が刊行された僅か3ヶ月後に、帰らぬ人となられました。





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Last updated  2022.08.21 15:07:24
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