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☆長く高い壁・浅田次郎 ・角川文庫 ・2021年2月25日 初版発行 ・単行本:2018年2月(株)KADOKAWAより発行 1938年秋。従軍作家として北京に派遣されていた小柳逸馬は、突然の要請で前線へ向かう。検閲班長・河津中尉と赴いた先は、万里の長城・張飛嶺。そこでは分隊10名が全員死亡したが、戦死ではないらしいという不可解な事件が起きていた。千人の大隊に見捨てられ、たった30人残された「ろくでなし」の小隊に何が起きたのか。赤紙一枚で大義なき戦争に駆り出された理不尽のなか、兵隊たちが探した“戦争の真実”を解き明かす、極限の人間ドラマ。(表紙カバー裏面より) という、大層な言葉が並んでいますが、詰めて書くと、残留部隊で起きた不可解な事件現場に送られた、売れっ子の推理小説家に求められる役割は何なのか・・・。もちろん真実を書くことは求められていない。作者は、小柳逸馬の監視役(?)として同行することになった川津中尉に、次の様に語らせています。 「日本を差し置いて、支那を讃美するような表現は、控えて頂きたいのです。過剰な表現をしなければ可とします。日本は支那の文化に敬意を表し、日本軍はそれを保護するためにかくある、という立場でお書き下さい」と言った。 小柳は川津中尉の明晰さに感心した。陸軍の検閲担当者としては百点満点である。かくして、任務の内容も期間も分からぬまま、小柳は出張することになった。不安ではあるが、むしろ好奇心がまさった。 ♣︎小柳逸馬 当代きっての流行作家、従軍作家として北京へ派遣される。左官待遇。 (佐官とは=1938年当時の軍隊の階級で、大佐、中佐、少佐がある) ♣︎河津中尉 北支方面軍司令部の検閲班長。東京帝大仏文学科卒。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 新聞記者の戦地給与は80円か90円の時代に、従軍作家は新聞社や出版社の記者という立場で従軍するかたわら、原稿料のほかに給料も受け取る。さらに、40日間の従軍に際して、政府の機密費から一人あたま700円の大金が支払われている。おまけに、報酬に加えて、口外できぬ「支度金」も受け取っていた・・・のだそうです。 この小説に描かれた「戦争」とは、盧溝橋事件に始まった謂わゆる「支那事変」のことのようです。作者は小柳逸馬という普通の感覚を持った1人の日本人の目を通して見た、軍隊という組織、軍人の思考回路、食糧事情などを書き、戦争というものがなんと愚かで、壮大な無駄遣いかを炙り出して見せてくれました。 ☆浅田次郎 1951年東京都生まれ。95年、『地下鉄(メトロ)に乗って』で吉川英治新人賞、97年「鉄道員(ぽつぽや)』で直木賞。2000年『壬生義士伝』で柴田錬三郎賞、06年『お腹召しませ』で中央公論文芸賞、司馬遼太郎賞、08年『中原の虹』で吉川英治文学賞、10年『終わらざる夏』で、毎日出版文学賞、16年『帰郷』で大佛次郎賞、19年菊池寛賞など、数々の賞を受賞している。15年紫綬褒章を受賞。その他著作に「日輪の遺産』『蒼穹の昴』『霧笛荘夜話』『マンチュリアン・リポート』『神座す山の物語』 『我が心のジェニファー』『獅子吼』『おもかげ』「大名倒産』『流人道中記』などがある。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2022.08.27 15:37:07
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