テーマ:読書(8559)
カテゴリ:本
☆極北ラプソディ・海堂尊 ・朝日新聞出版 ・2011年12月30日 第1刷発行 ・「週刊朝日」2011年2月4日号~11月18日号まで連載 ♣︎今中良夫 極北大医学部第1外科から極北市民病院に派遣された。外科医8年目だが博士号も取らず、医局の本流にはいない。極北市民病院での肩書は、外科部長。身分は非常勤。ボーナスも無い。極北市民病院に派遣されて1年半。極北市民病院副院長。 ♣︎世良雅志 総務省からから要請されてやってきた極北市民病院院長。 *過去の経歴 東城大学医学部附属病院 総合外科学教室(通称・佐伯外科)の外科医。佐伯の指示で、極北大医学部出身の優秀な外科医・渡海征司郎の世話係を務めるも渡海は病院を去った。その後、佐伯院長からの命で、スイスにあるスリジエハートセンターの天城雪彦を日本に連れ戻した。彼は世話役として天城の行動に深く関わっていた。世良をジュノ(青二才)と呼び、ダイレクト・アナストモーシスという自分にしか出来ない高度な技術を確立した天城だったが、病院の勢力争いに巻き込まれ、傷つき、彼は病院を去った。世良自身も病院に辞表を出し、恋人も捨て姿を消した。 ♣︎速水晃一 救急救命センター副センター長。将軍と呼ばれている。東城大出身、世良の後輩。桜宮市のコンビナート火災の際、活躍した速水はジェネラル(将軍)と呼ば ♣︎花房美和 極北救命救急センター看護師長。以前、東城医大で看護師長を務めていた。世良と交際していたが、何も告げず世良が去った日から18年、速水と共に極北救急救命センターに来て一緒に暮らしたこともあった。けれど速水は、花房の心にはずっと世良が住み続けていることを知り、部屋を出ていった。 極北市が破綻したあと、病院長は去り、三枝産婦人科部長が逮捕された極北市民病院は、副院長の今中良夫と数名で、辛うじて診察を続けていた。 総務省からの要請で、世良雅志氏が病院長として着任。本人曰く。自称「不良債権病院立て直し請負人」。これまで7つの病院の再建を手がけてきたという。 就任当初から世良は改革を進めていく。入院患者全てを極北大と極北救命救急センターに転院させ、半月後には看護師の90%が退職。世良は半月で、病院の前近代的な贅肉を削ぎ落とし、無用な人員の削減を終えた。 診察拒否した患者が死亡する事件がおき、極北市民病院が世論の非難に晒されるなか、世良は今中に極北救命救急センターへの出向を命じた。ドクターヘリによる救急の最前線を経験し充実した日々を過ごしていた今中だったが、世良が着任したときあれほど持て囃したメディアが手のひらを返したように、したり顔で非難する側に回っている。世良がひとりで窮地に陥っているときに、ただ一人の部下である自分が、なぜこんなところで医療に従事しているのだろう。 極北市民病院は、極北救命救急センターを頼りすぎだと非難する看護師に、今中は「うちの病院の医師は私と世良院長の二人だけしかいない。軽症だけでも救急を受けるというのは無理な話で、中途半端に受けて時間をロスするくらいなら初めからこちらにお願いした方が、市民にとっても良いことなのです」と言いながら、それが世良の言葉にそっくりだと気付き愕然とする。自分でも同じことを言って世良に噛みつきながら、外部に向けて説明しようとした時、世良の考えの妥当さを思い知らされたのだった。話を聞いていた伊達医師は、世良の考え方に理解を示した。 ドクタージェットがいよいよ本決まりになった。雪見市が目指すのは、北海道全体の救急医療を引き受けること、ドクタージェットは航空医療界を支配する第一歩だという。10数年前に極北大学を雪見市に誘致したのは、現市長の父親だという。現市長は2代目の筋金入りだ。今中は雪見市長の医療への取り組みの姿勢を聞き、極北市とのあまりの違いに呆然とする。 自分の進むべき道に迷う今中は、速水に、極北市民病院を、世良をどう思っているかと詰め寄った。速水は「世良先生は理由なく患者を拒否するような人ではない、ということを俺は知っている。彼は病んだ世界にメスを振るおうとしている。ならば、俺はその手のひらからこぼれ落ちる命を拾い上げる。これは役割分担なんだ。運命の指し示す道を信じ、まっしぐらに突き進めば良い」と答えた。 今中が極北市民病院へ戻って半年以上経っていた。病院へのバッシングはひと段落したものの、受診患者数は回復しなかった。だが、世良は売り上げ総額は黒字なのだという。 かつては極北の救世主として世良が新聞の一面を飾っていたが、今はドクタージェット構想を打ち上げた雪見市長の姿に代わっていた。 雪見市長から極北市へ、冬場のジェット飛行への医師派遣要請が来た。医師の要請先は極北市民病院に、フライトナースの派遣要請先は極北救急救命センターになっていた。世良は今中の意志を確認し、「では、当院からはこの依頼に医師2名で対応させていただきます」と応えた。 3月18日、飛行先はオホーツクに浮かぶ神威島(かむいじま)。改めて書類を見て、世良は目を細め呟く。「皮肉なものだな、ドクタージェットの行き先があの島だとは」 極北救命救急センターから参加するフライトナースは、天候不順により到着が遅れるとのこと。出発は延びそうだ。世良と今中は、指定された空港の管制塔のソファに座り、世良は遠い目で海を眺めながら話しだした。 「あの島には“神”がいる。そしてあそこは、僕の医師としての第二のキャリアが始まった場所だ。 ある事件をきっかけに失望した僕は、外科のキャリアも恋人も投げ捨てて故郷を出奔した。死ねなかった。死ぬことは敗北だ。生き抜き、僕の存在を知らしめること。それが連中への最大の復讐になる。そう思い続けて生きてきた。見知らぬ土地を放浪し、道なき道をたどり、気がつくと海岸通を歩いていた。そう、ちょうどあの辺りだった」世良の声に懐かしい響きが混じる。 花房師長が到着し、神威島へ向かった。島の滞在時間は2時間の予定が、パイロットの急病で出発は延期になった。 何も告げず世良が去ったあの日から数えて、世良と花房は18年振りの再会だった。花房は、速水と共に極北救急救命センターに来て一緒に暮らしたこともあったが、花房の心にはずっと世良が住み続けていることを知った速水は、すぐに部屋を出ていったという。 道庁への報告を終え留守番をしていた今中に、世良は照れ臭そうに花房を引き合わせた。 「少し遠回りしたけれど、僕はここで、一からやり直そうと思うんだ。この人と一緒にね。僕はもう逃げない。北の大地に根を張るよ」 今中は両手を広げて笑顔で迎えた。 ☆極北市民病院 破産宣告された極北市の市民病院。 ☆極北救命救急センター 極北救急救命を雪見市に移転する際、市は移転費用を負担し、ドクターヘリで運ばれてきた患者の治療のバックアップは、民間の個人病院が引き受けるシステムになっている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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2024.08.19 16:29:50
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