テーマ:読書(8559)
カテゴリ:本
ぼんぼん彩句・宮部みゆき ・角川書店 ・2023年4月19日 初版発行 (月刊「俳句」に掲載されたものを加筆修正) ・俳句 × 小説。 17音の奥に潜む誰も知らない物語。 1.枯れ向日葵呼んで振り向く奴がいる 寿退職で仕事を辞めたのは2月半ばのことだった。花束をもらい、皆の笑顔と拍手で送り出してもらったあの日は霙が降っていた。それから1ヶ月ぼど後、婚約者が訪ねて来て、結婚は取りやめにしたいと言ったのだ。 婚約者とは3年間交際していた。どちらの両親への挨拶も済ませ、結婚後の生活設計のこと、子供の数のことなど真剣に話し合い、彼女が仕事を辞めることにしたのだった。 気遣いのできる立派な社会人のはずだった彼は、アツコとの結婚話を進めながら会社の同期の女性とも付き合っていたのだ。妊娠させてしまったので、結婚しなければならないと言った。 9月のある日、ハローワークのすぐ近くにあるバス停から、経路図も見ずに、アツコは来たバスに乗った。終点の「いこいの丘市民公園入り口」で降りた。園内をぶらぶら歩いていくと一面の向日葵畑があり、向日葵は一本残らず枯れていた。 この向日葵は今のあたしだ。この向日葵の一本一本が、これまでのアツコの人生の場面だ。あの日、こころを打ち砕かれたアツコが過去を振り返った瞬間に、それまで生き生きと咲いていた全ての思い出が、一本残らず干からびて立ち枯れてしまったのだった。 2.鋏利し庭の鶏頭刎ね尽くす 義母はガーデニングが趣味だった。知花が夫に連れられ、始めてこの家を訪れたとき、芝桜と沈丁花が咲いていた。その美しい景色と芳しい香りに、当時は頭の中にも花を咲かせていた知花は、花々が自分たちの結婚を祝福してくれているような気がして胸がいっぱいなったものだ。だが、それは悲しい勘違いだった。 全てを知ったとき、一つくらい意趣返しをしたいと思っていた知花は良い話を聞いた。 「お母さん、ちょっと来て、早く早く来てよ。 庭が大変!」 息子を連れ家を出た知花は、よく朝、義妹の叫び声が庭に響いたことは知らない。 3.プレゼントコートマフラームートンブーツ 4.散ることは実るためなり桃の花 5.異国より訪れし婿墓洗う 6.月隠るついさっきまで人だった 7.窓際のゴーヤカーテン実は二つ 8.山降りる旅駅ごとに花ひらき 9.薄闇や苔むす墓石に蜥蜴の子 10.薔薇落つる丑三つの刻誰といぬ 11.冬晴れの遠出の先の野辺送り 12.同じ飯同じ菜を食ふ春日和 ・・・・・・・・・・ <作者のあとがきから> 仕事を通して親しくしてきたほぼ同年代の人たちと、「BBK」という会をつくりました。「ボケ防止カラオケ」の略称で、メンバーは15名。4カ月から長くても半年の間隔で集まり、それぞれがカラオケをの新曲を歌う趣旨の会だった。やがて「BBK」は、「ボケ防止句会」に発展。 思いついたのが「BBK句会で生まれた俳句をタイトルにして、短編小説を書く」というアイデア」だった。短編小説が、タイトル句の作者の創意とはかけ離れたストーリーになることもあり得る。それでもかまわない、むしろ自分の句がどんな短編になるか興味があると、メンバーのみんなが快諾してくれた。タイトルの『ボンボン彩句』の意味は、お菓子のボンボンのように繊細できれいて、彩り豊かな句を詠みたい、短編集もそうでありますように ーという願いを込めました。 (要約させて頂きました) 帯には、『社会派、時代、ホラー、SF・・・・・。ジャンルを超えて様々なストーリを紡いできた「宮部文学の新しい挑戦』と、書かれていました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024.09.15 10:42:04
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