テーマ:読書(8559)
カテゴリ:本
☆ブラック・ショーマンと覚醒する女たち 東野圭吾 ・光文社 ・2024年1月30日 第1刷発行 謎に包まれたバー「トラップハンド」のマスターと、彼の華麗なる魔術によって変貌を遂げていく女性たちの物語 ♣︎神尾武史 神尾真世の叔父、元マジシャン。アメリカで活躍していたらしい。現在は恵比寿にあるバー『トラップハンド』のマスター。40代後半、長身で手足が長く、形の良い指でしぐさが洗練されている。 ♣︎神尾真世 文光不動産リフォーム部勤務。建築士の資格を持つ。神尾武史は叔父。 1.トラップハンド 食事の後、清川が美菜を誘った店は、恵比寿の幹線道路から少し外れた通りにあった。路地の前の道路に『TRAPHAND』と刻まれたブロックが無造作に置いてあった。直訳すると『罠の手』、美菜は隠れ家的な店だと思った。木製の地味な扉を開けると、右側にカウンターがあり、その向こうにマスターと思しき長身の男性がいた。黒いシャツの上から黒いベストを羽織っている。マスクも黒だった。 清川は45歳、結婚歴なし 。プロフィールにはそう記されていた。経済力や資産については食事の時にさり気なく探りを入れてあった。 清川おすすめの酒はブルーハワイ。カクテルを待つ間、清川の話題はハワイに持っている別荘の話だった。美菜にスマートフォンの中の別荘の写真を見せた。 カクテルは美味しかった。話題は自宅の話に及び、話を聞きながら美菜は結婚後のことをあれこれ思い巡らせていた。美菜の質問にこたえ、自分がどんな仕事をしているのか話しているうちに清川の様子がおかしくなり、マスターに案内されてトイレに立った。 戻ったマスターは美菜に目で笑いかけてきた。 「婚活アプリですか。それとも婚活サイト?」 清川の動きを注意深く観察していたマスターは、2人の関係を見抜いていた。彼は清川がカクテルに睡眠導入剤を混ぜたグラスを、いつのまにかすり替えていたのだ。それを知らずに飲んだ清川は、トイレの中で便器を抱えて眠り込んでいた。 清川のスマホに保存されていた写真には、うつ伏せになって眠らされている女性の裸体の写真があった。マスターは清川の話の嘘を指摘し、「他の場所ならともかく、この店で卑劣な犯罪が行われようとしているのを見て見ぬふりはできませんからね。この次には真に素敵な男性といらっしゃることを祈っております」 美菜はマスターの顔を見つめた。この人物は一体何者なのか。 2.リノベの女 上松和美は、文光不動産リフォーム部の神尾真世の客だった。白金にあるマンションは時価2億円くらいした筈だ。上手くいけば、思い切り腕をふるえると、期待に胸が膨らんだ。 彼女の要望は、リフォームというよりリノベーションと言った方が適切だろう。打ち合わせ場所をどこか他の場所にして欲しいという和美の要望に応え、真世は叔父に頼み込み、開店前の「トラップハンド」に決めた。 彼女は中学生のとき『兄に殺された』と言う。以来、男性が怖くなり、結婚も考られず生きてきた。ところが老人施設で働いていたとき、上松幸吉と出会った。親子以上に年が離れていたせいか、それまで会った男性とは違って見え、2人は結婚した。だが、その夫は2年前に他界した。 自分が膵臓癌で余命幾許もないと知ったたとき、愛する夫の財産が、全てではないにしろ憎い兄のものになることが許せなかった。 自分にそっくりな末永奈々恵に出会ったとき、奇跡だと思った。奈々恵のことを色々調べ、信用できる人だと確信し、彼女に遺産を託すことに決めた。 末永奈々恵が川崎にある大型書店で働いていたとき、上松和美が声をかけてきた。和美は、自分の生い立ちのこと、膵臓癌で余命幾許もないことなどを全て話し、自分の身代わりになって生きてほしいと話した。 上松和美の話を聞き、奈々恵は引き受けることにした。彼女には、自分自身を葬り去りたい事情があったのだ。もしかしたら人生をリセットできるかもしれない。その日以来、2人は頻繁に会い、お互いになり切るための訓練をした。自殺するつもりだという和美に、奈々恵は、ならば末永奈々恵として死んでほしいといった。 末永奈々恵の母は、娘が死んだと思って悲しみ、苦労するであろう。母のことは、上松和美として生きつつ見守りたいと思っているという。そうであれば、他人が口出しする問題ではないのかもしれない。 奈々恵の真意を悟った真世は、「よく分かりました。もう何も言いませんから」と言い、「上松様、打ち合わせを始めましょうか」そう言いながら思った。この女性は家だけでなく、人生もリノベーションするんだなと。 3.マボロシの女 歯科医であり、ウッドベース奏者の高藤智也の演奏会終了後、火野柚希は智也との待ち合わせ場所の「トラップハンド」に向かった。12時を過ぎても智也は来ない。彼は既婚者で高校生の息子がいた。その息子が高校を卒業したら離婚するつもりだと言っていた彼は、バイクに撥ねられ呆気なく死んでしまった。 智也との結婚を心待ちにしていた柚希は、一時は死のうとまで思った。2年が経った。彼女をずっと支えてくれた親友の山本弥生を誘い、以前、智也と行った「トラップハンド」に行った。久し振りに訪れた柚希に、マスターは柚希の知らなかった智也の思いがけない過去を話した。 4.相続人を宿す女 死んだ息子の住んでいたマンションを、老後の住まいにリフォームしたいという依頼があった。話を進めていた建築士の真世に、夫妻からリフォームのストップがかかった。息子は8ヶ月前に離婚していたが、元妻の女性が息子の子を宿しており、相続権があるはずだと言い出したのだ。 5.続・リノベの女 上松和美として生きる末永奈々恵が、訳あって縁を切った母は、認知症を患い施設に入っていた。奈々恵が残した金は相続の手続きもせず放置されており、彼女の預貯金はそろそろ底をつく状態で、このままでは施設を出なければならなくなることが判明。 ネットパンキングを使うしかない。武史は一計を案じ、施設のイベントに出演することにした。武史は黒タキシード姿でマジックを披露。末永く奈々恵は真っ赤なチャイナドレス姿に、真世はゴスロリのワンピース姿にそれぞれ身を包み、感染予防の大きなマスク姿で助手を務めることにした。 6.査定する女 婚活に励んでいた、バルバロックス東京 インテリアコンサルタント 陣内美菜には、かつて追い求め、諦めた夢があった。 カブト・エージェンシー 代表 プロデューサー 大瀬逸郎は、ブロードウェイで上演される、新作ミュージカルに出演する日本人の女性俳優を探していた。 候補はほぼ絞られていたのだが、彼には別の日本人女性のことが気になっていた。その女性の演技は、繊細さはやや欠けるが、人の心に訴えかける何かがあり、何より予測不能という点が魅力的だった。台本を読むとイメージがピッタリだった。だが帰国してしまったらしく連絡が取れなかった。 久し振りに帰国して、トラップハンドで、美菜に巡りあったのだ。 ・・・・・・・・・・・ ブラック・ショーマンシリーズ2作目。 これまで、作者の作品に登場した、和製コロンボとも言われた「加賀恭一郎」、ガリレオシリーズに登場する「湯川学」とも全く違うタイプの、元マジシャンであり、バーのマスターの探偵、「神尾武史」の登場です。 続編がありそうで、楽しみが増えました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024.09.26 16:17:13
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