第三話『ガーディアンの戦士達』 VSアシュロント編 Aパート
ガーディアンの先行部隊は様々な世界を放浪する為に、複数の幹部と共に要塞を拠点としている。 その中の一つの要塞内部では次の進行世界を探すと同時、あるイベントが行われようとしていた。 神鷹・カイトの実力検査と言う名の実戦テストである。 ルールは基本的に何でもあり。 あくまでカイトがどれ程戦えるのかを計るのが目的なので、武器の持ち込みも自由。 何かしらの超能力や魔法、変身なんかが使える場合はそれも使用可能。 ただし、それは相手にも適応されている。「相手も立場がありますので、本気で来ると思ってください。尚、禁止事項は相手を殺すことだけです」「勝敗を決する為の物は?」 一番大事な項目だ。 殺しが無しならば、しっかりと確認しておく必要がある。「ダウンしてこれ以上戦闘できないと審判である僕が判断した場合。または降参した場合です」 審判は自分に今まで説明をしてきたカインが引き続き行うことになった。 彼はガーディアン側の人間だが、こればっかりは文句は言えない。何といっても彼等の組織で行われるからだ。「一応、念の為に言っておきますけど僕は公平な審判ですからね?」「そうであることを心から祈っておこう」 その場で手を合わせて大げさに祈る仕草をする。 信用ないなぁ、と呟きつつもカインはルール確認を続けた。「基本は1対1で、その後の怪我の状態や貴方の意思なんかも尊重して戦い続けてもらいます」「連戦なのか?」「はい。体力測定も兼ねてると考えていただければ」 大体こんなところでしょうか、と話を切り上げるカイン。 「他に質問は?」「……要するに、勝てば問題ないわけだな」 返答には簡単にそうですね、と答えてからカインは扉を開ける。 扉の先にあるのは戦いの会場――――ガーディアンの戦士達の集う、コロシアムである。 普段のコロシアムはガーディアンに所属する構成員達の練習試合に使われている。 今回のように新人を本格的な舞台でどれだけ戦えるのかを見極めるというのは、そんなに多いケースではない。 最近は特に幹部達の目に叶う新入りが少なくなったのもあるのだが。(意外と広いな……) その広さは想像よりも遥かに大きかった。 カイトは大体プロレスのリング並みの広さなんじゃないかと考えていたのだが、実際は学校にある体育館3,4つ並みのスペース。 そして地を支配するのは床ではなく、どこにでもあるような普通の大地だった。「文字通り、コロシアムって訳ね」 扉を潜った瞬間に歓迎の視線が降り注いだ。 コロシアムと言うだけあって、観客は戦いを見物しに来ている訳だが彼等の目的は単なる娯楽ではない。「確認しておきますが、観客はあくまで貴方がどれだけ戦えるかを見極める為に集まった組織の構成員です。ギャラがもらえるとかそういう不埒な事を考えないようにお願いしますね」 それだけ言うと、カインは審判としてコロシアムの中央に立つ。 (こんなに集まってるんだから、新入りに優しくしてくれたっていいでしょうに……) コロシアムを囲むようにして存在している観客席は完全に組織の構成員達で埋め尽くされていた。 前回のカインからの説明にもあったように、組織には三つのランクがある。 その三つのランク全員が終結し、自分を審査しようと言うのだろう。「…………」 そんな中、カイトはある人物を観客の中から探していた。 (あのガキは……いた!) 幹部と言うだけあって、シデンをテディベアに変えた少女は構成員達が埋め尽くしている観客席ではなく、その上にある玉座からこちらを眺めていた。 隣にはペルセウスも控えている。 これでは王様とそれをお守りする騎士様である。(まあ、立場的に間違ってはないんだろうが……どうにもあのガキの考えはよくわからん) 少女はあくまでカイトのみに視線を集中させている。 彼女が何故自分をこの組織に引き連れてきたのか理由はわからないが、少なくとも今は彼女の前で『切り札』を見せるわけにはいかない。(下手に見せたらそれこそ命取りだ。それに、『アレ』は本当に緊急時の時にしか使わないし……周りから勘付かれることのないように、此処は何時もどおりのペースで行こう) 少しアップを始めてから、視線を少女から中央に居るカインに移す。 それが準備完了の合図だ。「ではこれより、新入り君の実力審査を始めます。先ず彼と戦うという者は前に出てください」 戦う相手は会場の中から募集される。 我こそは、という立候補者はその場で立ち上がり、会場に意思表明――――降りてくれば良いというものだ。「これで誰も来てくれないのなら面倒にならずに済むが……」「では、先ずは私は行こう!」「そうは行かないよな……」 少し肩を落とした後、カイトとカイン、そしてコロシアムに集まっている構成員達は意思表明をした戦士に視線をやった。 すると、そこにはカイトも見知った顔があった。(ゲイザー・ランブル!) チャーハン大好き、ゲイザー・ランブル。 相変わらず白仮面を装着しており、素顔は見えないがその仮面越しから伝わってくるのは間違いなく強い敵意そのものだった。 どうやらかなり嫌われていると見ていいだろう。 だが、意思表明をしたのは彼ではない。 彼の横に座っていた、何処となく貴族風の立派な服装を着ている緑髪の長髪が印象的な男性だった。「アシュロント・ネリアスだ!」「薔薇の英雄か!」「ああ、あの電波王子ね……」「おらアシュロント! 音量小さくしろ!」「うおおおおおおおお!! アーガス・ダートシルヴィーだとぉ!?」 コロシアム全体が彼の登場に沸き立つ。 しかし、ソレと同時にカイトは思った。(あの男はアシュロント・ネリアスとアーガス・ダートシルヴィーのどっちなんだ?) 他にも薔薇の英雄、電波王子、音量小さくしろとの訳のわからない単語が続出している。 まさか最初からこんな訳のわからない戦士と戦わなければならないとは思わなかった。 しかし、幸いにも疑問は晴らされる。「こらー! 誰だ今『アーガス・ダートシルヴィー』って言った奴は!? 私はこの世に使わされた美の化身、『アシュロント・ネリアス』なの! 『アーガス・ダートシルヴィー』じゃないの!」 整った顔立ちで苛立ちを露にしつつも、何故か背面が全て薔薇で覆い尽くされている。 その量はまるで彼だけをこの世から薔薇の世界へ移したかのようであり、隣に居るゲイザーは酷く迷惑そうに薔薇の棘を払っていた。 その様子を見て、カイトは思った。 ああ、馬鹿か、と。「代表者、アシュロント・ネリアス。前へ」 しかし審判であるカインはあくまで冷静だった。 彼はアシュロントを会場に来るように促すと、中央から邪魔にならない位置に移動を始める。 だがソレと同時、何故かコロシアム全体に音楽が鳴り響き始めた。「?」 今までの音楽は精々観客の騒音だけだっただけにこの変化には驚きを隠せないカイト。 だが、カイン達は頭が痛い、とでも言いたげにガックリと肩を落としていた。「ふははははははは! お初にお目にかかるな新入り君。私の名はアシュロント・ネリアス! 美しき美の化身、アシュロント・ネリアス様だ! 今日は君に歓迎の意を表して私の美しいピアノ捌きを見せてあげようではないか!」 何故かピアノと一緒に流れるようにしてコチラに移動してきたアシュロント。 いちいち自己主張の激しい男である。顔立ちも整っているだけに余計に腹立たしい。 じゃーん! ぱろぽろりろぴろぴろぴろぴろ!「では参ろう。美しき我がテーマソング。『ああ、美しきビューティフルウォリアー……』」 ああ、今からテーマソング歌うのね、とその場で項垂れるカイト。 しかもわざわざ口に薔薇を加えてくださって雰囲気を出している。 もう好きにして欲しかった。「あー……申し訳ないのですがアシュロント。そろそろ始めて欲しいんですけど?」 このままでは何時本番が始まるか判った物ではないので、審判を務めているカインが待ったをかけた。「何を言う。これからが美しい美のサプライズの本番ではないかね。これより新入り君に私の美しさを刷り込んでもらわないと」 刷り込まれなきゃいけないの、と目で訴えるカイト。 いえいえ、あれは只の戯言です、とカインは同じく目で返した。 意外とこの男とは仲良くなれそうな気がした。「アシュロント。貴方は何の為に此処に来ているのか判ってるんですよね?」 あくまで確認の意をこめて言う。 それに対し、本人は当然だと言わんばかりに主張した。「私の美を頭に叩き込ませることではないのかね?」「もう頭打って帰ってくださいアンタ」 真顔で言い放つカイン。 だがソレに対し、アシュロントは、「? では私の祖国のお土産である薔薇煎餅を献上すればいいのかね?」「何でそんな話になったんですか? ねえ、僕そんなに難しい話してますかね?」 見てるだけで頭痛がしてきた。 何時になれば終わるのか判らないこの茶番を見てるだけと言うのも退屈する物である。「おーい。俺帰っていい?」「アシュロント。このままだと彼の目に汚点として残されますよ!? それでいいんですか!?」 服を掴んでガクガクと身体を揺らしまくるカイン。 揺さぶられまくっているアシュロントはそれでも状況を把握しようとし、「ううむ、汚点となるのだけは我が美しさに賭けて許す訳にはいかん! 美しく勝負と参ろう!」 判ってるなら何故最初からそうしないんだろう、とカイトは思った。 だがいずれにせよ、ようやく茶番が終わったのも事実。「では、待たせた非礼を詫びるのも含めて先制攻撃を許そう。美しく攻撃してきたまえ」「何?」 これからやっと始まったか、と思った瞬間、アシュロントから思っても見なかった提案が飛んできた。 と言うか、非礼とか自覚があるなら最初からやるなと言いたい。「…………」 じっ、と睨んでみるがアシュロントは動じない。 それどころかピアノから離れ、武器らしい武器も持っていなければ構えようとすらしていない。 正しく棒立ちの形であった。 視線でカインに始めてもいい物か問いかける。「……アシュロント。今度こそ準備はいいんですね?」 同じ事を思っていたのだろう。 カインは全く同じ疑問を審判と言う立場から問いかけた。「構わん。美しく始めたまえ」 ソレに対し、アシュロントはやはり動きを変えようとしなかった。 直立不動。 先程まで馬鹿みたいに笑いながらピアノを鳴らしまくっていた姿からは想像もできない真面目振りである。 「では……代表対新入りの第一試合を開始します」 その声だけで『始まり』を理解するには十分だった。 構えも取らず、先手を許すというのならば遠慮なくそれに乗らせてもらう。 そして『破壊』する。 それがカイトの先制攻撃だった。「!」 会場にざわつきが生まれるのとアシュロントの目が見開かれたのはほぼ同時だった。 先程までカイトが居た場所に砂埃が起こると同時、その姿が消えたのである。(速い! ゲイザーと争った時以上だ) その行動をいち早く理解したのは審判役を務めているカインだ。 彼はただ真っ直ぐアシュロント目掛けて『走っただけ』なのだということを理解した彼は、そのままアシュロントが受けるであろうダメージの計算を頭で行っていた。(彼のパワーはゲイザーの鉄仮面ですらヒビを入れる。素顔丸出しのアシュロントがあのパワーをもろに受けたとすると……!) 顔面を殴られたとして、顔の骨を『破壊』されるだろうと推測。 だが、途中で止めることは審判役として許されない。 あくまで攻撃する権利を与えたのはアシュロントなのだから。