第三話『ガーディアンの戦士達』 VSメラニー編 Fパート
「だがなぁ。中継で見せてもらったが、結構一杯一杯だったぜ? お前だって、アシュロント戦で左腕を削ぎ落としたのを見ただろうが」「そ、それは確かにそうですが……!」 正直なところ、『切り札』は確かに無しだったが今の自分としては結構真剣だった。 その上でアシュロントに寄生植物を植えつけられ、身体能力で大きく上回っていたにも関わらずメラニーを捕まえるのに時間がかかった。「ま。確かに何かしらやベー能力を持ってたり、武器を持ってたりする可能性は否定しない。だが文字通り身体を削って戦ったんだ。大目に見てあれないかなぁ?」「そーだそーだ。痛いんだぞー」 どうやらペンギンは自分側に着いてくれる様なので、ここは流れに乗っておく。 まさかペンギンに言葉で助けられる日が来るとは思っても見なかったわけだが。「……確かに、切り札があるのかどうかを置いておいて身を相当削ったのは認める」 意外にも、タイラントは思ったよりもあっさりと頷いてくれた。 キルアは面白く無さそうではあるが、渋々、と言った具合だろう。 「しかし我がレオパルド部隊がこの件で舐められたのも事実!」 前言撤回。タイラントは根本的なところでは頷いていなかった。 あくまで認めたのは『やりあって、ダメージを受けていた』ということだけである。「やはり私としてはソイツをきちんとぶちのめさなければ筆頭として気が収まらん!」 どうあってもタイラントは自分を叩きのめすつもりらしい。 それならそれで迎撃するのが何時ものスタイルではあるのだが、(難しいな……カインに攻撃を仕掛けたときの拳と余裕を見る限り、まだ全力じゃ無さそうだし) それに身体に蓄積されたダメージの事もある。 もしここでタイラントと戦うなら、それこそ『切り札』がないと辛い。 今のままではほぼ確実にボロ雑巾にされるのがオチだろう。「ったく、しょーのねぇ。これ以上やったって新入りがボロボロになるだけだろうが……おいカイン」「は、はい!」 審判ながら殆ど縮こまっていたカインがペンギンの一言でびくり、と立ち上がる。 イケメンがペンギンより立場が無いというのもどうなんだろう。「この場合、新入りが戦闘不能になるまで続けられるのか……?」「敗北することになりますが、これ以上の実戦テスト続行が出来なくなりますね。他には本人が待ったと降参すれば負けではあるんですが……」「ま、それで納得しない奴が二人居てこうなった訳だ」 羨ましくもないモテ方してるぜ、と呆れつつもペン蔵が自分の方に近づいてくる。 こう見てみるとペンギンなだけに身長はかなり低い。 全体の身長は成人男性の平均といわれる170程の自分の、腰にまで届いていないほど小柄であった。 まあ、ペンギンが自分より身長大きくて見上げる形になったとしたら物凄く嫌なのだが。「おい新入り。名前は?」「神鷹・カイト」 こちらを見上げるペンギンから放たれる『オーラ』は本物だった。 そして今回はコチラが迷惑をペンギンにかけてしまったのもあり、大人しく本名を名乗っておいた。 横でカインが『あれ? 山田・ゴンザレスじゃ……』と言ってるが知ったことではない。先に仕掛けてきたゲイザーが悪いのだ。「そーか。悪いがお前の為だ。ボロ雑巾にならないように手加減はしてやるから、ちっと我慢しろい」 は、と疑問の声を挙げる間もなく。 ペン蔵の小さな羽根がこちらの頭上から振り下ろされた。(あれ? ペンギンは確か俺よりも身長下だよな? なんで何時の間に上に居るんだ?) それはあまりにも突然すぎた。 殺気も、気配も、間近に居たにもかかわらず察知できない。 だが、それだけあればこのペンギンにとって十分だった。 小粋なジャンプでカイトの頭上に飛び、その可愛らしい羽から放たれたのは『拳骨』。 古来から子供の注意の為に使われたその行為がカイトに襲い掛かったのである。 しかしその一撃はあまりに強烈。 例えるのならば交通事故があったとしよう。 交通機関に大きくぶつかり、身体的な損傷を負ってしまう事故だ。 それで撥ねられたと仮定して、この拳骨の破壊力は、「あ―――」 恐らく、普通の人がジェット機にでも撥ねられたらこんな威力なんだろう。 拳骨をされてその場でダウンしたカイトは、意識がブラックアウトしながらもそう思った。 そして同時に思った。 ペンギンぱねぇ、と。「これでコイツはコレ以上の戦闘続行不能だ。完全に目ぇ見開いてぶっ倒れてる」「クレーターできましたけど、突っ込む気力もないです」 余波から逃げるの苦労するんですよ、とカインは疲れた顔で言うがペン蔵はそこまで気にかけるつもりは全くなかった。 (ぶっちゃけ、逃げに関してはこいつスペシャリストだからな) あんま自慢できることじゃないけど。 カインが緊急で手配した担架で運ばれるカイトを見つつ、ペン蔵は思う。(切り札があろうがなかろうが、お前じゃキルアちゃんを振り切れない……寧ろ、ソイツがあるから振り切れないのかも知れねぇな) ペン蔵は組織の中でも相当な古株だった。 今では数人しか居ないゴールドクラスに最初に就任したのも彼だし、キルアが幹部として組織に組み込まれた時も当然ながら先輩として先に存在していた。 故に、組織全体の構成員の顔は大体把握しているし、彼らの能力や願いも極力聞いて先輩として力になりたいと思っていた。 キルアもその一人だ。 彼女は最初からガーディアンの構成員だった訳ではなく、強大な『力』を持っていたが為に組み込まれた幹部だった。 簡単に言えば、彼女も願いを叶える為に此処にいる。 だが、幹部でも願いを叶えることができるのは最大の力を持つといわれる頂点に立つ『ゼロムス』のみ。 (ま、この事を知ってるのは幹部と俺達一部のゴールドクラスくらいだが、な) キルアたち幹部は命令する権利は与えられるが、敢えて言うならゴールドの上を行く『プラチナクラス』と言ったところ。 これは『ゼロムス』を除けば2人しか居ないので、幹部と言う形で省かれているが。(だが、キルアちゃんがムキになって行動するとは……どうやら奴の『切り札』。何かある、な) しかし贔屓するつもりはない。 新入りがその為にリンチになろう物なら身体を張って中断させるのが自分のやり方だ。 身体を張るのは被害者だけだが。「タイラント、オメーもたいがいししろぃ。人の上に立つ者は、感情的なばっかじゃいけねぇのさ」「ちぃっ……!」 何かしらの形でカイトとレオパルド部隊は衝突を免れないだろう、とペン蔵は思う。 確かに次女からは気に入られたようではあるが、長女が目の仇にしている。 シルバークラス最強の暴君。彼女を抑えるのは難しいだろう。「さて、どうやって新入り君を馴染ませてやるか……」「ペン蔵さん。少しいいでしょうか」「ん?」 考え込もうとしていると、審判のカインが話しかけて来た。「先ずは助かりました。あのままでは彼はペルセウスとタイラントを相手にして、ボロボロにされるのがオチでしたから」「手荒な新入り歓迎会だが、ここまで手荒な歓迎会はないな。その二人相手はペルセウスと同じ階級の俺でも辛い」 手っ取り早く終わらせる為に対象を急いで病院送りにするのがあの場では一番ベストだと思った。 ついでに治療を早いところ受けてもらった方がいいだろう。 見ていて痛々しい。「しかし、実戦テストのルールでは新入りの配属されるグループは実戦テストで彼に勝てた者が決めることになってます」「判ってるよぉ」 詰まり、介入する形になってしまったがペン蔵がカイトの配属するグループを決めなければならないのだ。 あまりにも突然の連続で正式に戦いが開始されたわけではないが、そうした方が手っ取り早いだろう。 タイラントは少なくとも納得してくれるはずだ。「問題だよなぁ、それ」「彼はポイントを一番多く稼げるグループへの配属を望むと思いますが……レオパルド部隊は女性限定。我々ジャッカル部隊はゲイザーがかたくなに拒否するでしょうね」「実力は認めるんだが、多く稼げる人気グループに入れないってのも乙なことだぜ」 実戦テストの結果はペン蔵の目から見れば悪くない。 少なくともシルバークラス相手に十分に戦える。 危ない場面もかなりあるが、『切り札』の存在を考えるとゴールドクラスの相手も出来る存在かもしれない。「一応、パッと見ランクはシルバーランクの上位ってところか」 それじゃあ目を覚ましたら一緒にシルバーのグループ回って決めてやんないとねぇ。 ペン蔵は溢れ出る『親父オーラ』を身にまといつつも、そんな事を考えていた。 続く