夜空に羽ばたく虫の心臓はスーパーホット
皆さん、まずこちらのページをご覧下さい。そして妖しげな星雲の写真をクリックして拡大された仔細な映像も楽しんでいただきたいと思います。これはさそり座にあるNGC6302という、地球から4000光年の距離の惑星状星雲で、通称「バグ星雲」と呼ばれているものです。バグというのは虫(私よくこれに悩まされるんですよね。あ、いや虫に食われるという意味ではないのですが)のことで、まるでハエか何かが羽を広げて飛んでいるように見えることから名づけられたのではないかと思うのですが、本当にそうなのかどうか、はっきり知りません。地上からは望遠鏡でもぼんやりとその外観が眺められる程度ですが、この写真はハッブル宇宙望遠鏡によって撮られたもので、はっきりくっきり映っていますので内部の様子まで窺うことができますね。この星雲の羽の断面のところに超高温の星が在り、水素や窒素などのガスをイオン化して輝かせていることが知られています。このガスは太陽の8倍ほどの質量の星が赤色巨星になる以前に、質量の半分を宇宙空間に撒き散らしている状態なのですが、科学者の注意を惹いているのはその外見ではありません。中心の星から、羽のように見えるふた筋のガスの流れがなぜ生じているのか、何がガスを二分しているのか、この点に専門家の目は向いているようです。つまり、なぜ均等に広がり球状のガスにならないのかということです。もちろん、普通に考えると、恒星の自転力により、赤道方向にリング状にガスが飛び散るとする考え方も一理ありそうですが、それだけではこれほどの強い力は働かないのではないかとする専門家の分析があります。可能性として、中心の星には伴星があり、もうひとつの星が相互軌道平面に放出されたガスを引き寄せているのではないかとする説。この星の惑星のひとつに巨大惑星があり、主星が膨張する際に巨大惑星を呑み込んだときに、恒星の自転速度が急速に上昇(100倍くらいに)してガスの拡散が赤道平面方向に加速されたとする説。もし、太陽に木星クラスの惑星を放り込むと太陽は気が狂ったように早く回転し始める、と科学者は推測しています。ですから、ガス星雲の源となった恒星には水星ほどの軌道に巨大惑星があったのではないかと想像することもできます。このことは、以前某国営放送の番組にあった、恒星の直近を高速に周回する巨大惑星のモデルと合致しています。ひとまずは電波望遠鏡によるさらなる観測からもっと詳細な姿を捉えることが必要なようですが、科学者を興奮させているのは中心部の星の温度の高さです。太陽の表面が5000~6000度C程度に比べ、この星の温度はなんと250,000度Cにも及ぶのです。白色矮星と呼ばれる太陽クラスの星の残骸でも100,000度CほどなのですからスーパーAクラスの熱い星ということができます。天文学者は、この星が燃料となる水素を吐き出す一歩手前の、星が最も熱くなる瞬間を捉えた結果なのではないかと推測していますが、250,000度Cという温度はちょっと想像を超えていますね。そんな温度を導き出せる計測技術というか分析技術も凄いなあと思ったりしますが。ところで、バグ星雲の近くに俗称「出目金星雲」なる面白い天体もあります。右下の小さな球が三つ並んだ星雲ですが、出目金に見えますか? 欧米では、猫足星雲とも呼ばれ、球が猫の肉球に見立てられているようです。ちなみに左上の星雲は「彼岸花星雲」と呼ばれています。もうすぐ、星空が賑やかになる夏です。夕涼みを兼ねて星空散歩を楽しんでいただくのも一興かと。