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テーマ:ドキドキしちゃう(318)
カテゴリ:会社生活
プレゼン前なので土日連続の休日出勤で打合せも連日深夜に及び、さすがに寝不足もピーク。この日も明け方2時間寝ただけで、早朝からムスメ1号の父親参観に行き、そのまま午後から出社していた。作業と打合せがようやく一段落ついたのが午前1時過ぎで、同僚のMさんと一緒にビルの裏にある通用口から、裏通りに出た。人気もなく薄暗いオフィス街の裏道には、小雨が落ちてきていた。 疲労困憊で、はやくタクシーを拾おうとMさんに続いて通用口のドアをくぐったその瞬間、数歩前にいるMさんが「あ、あぶないわ」と小声で呟いた。何かと思って顔を上げて前方を見ると、暗がりに何かが鈍くギラリと光った。「あかん、包丁持ってるわ」と、Mさん。眼を凝らしてよく見ると、ビルの通用口からほんの数メートル前の通りを、あきらかに眼つきのおかしな男がひとり、刃渡り30センチほどもある刺身包丁を右手に握り締め、傘もささずにこちらに向かって歩いて来る。 推定年齢60歳。背格好は中肉中背だが、丸刈り頭に、上下とも黒の半袖、短パン姿。深夜のオフィス街に、異様な風体である。男はかなり足取りがおぼつかない様子で、酒に酔って千鳥足というよりも、間違いなく薬物中毒患者のラリった状態であると思われた。 一体何やこのおっさんは?ビル街のどこから出てきた?シャブ中か?など、疲れた頭の割には瞬時にいろいろと想像が巡る。見ると、いつの間にか男はMさんの側を通り過ぎていて、ゆっくりとではあるが確実にこちらに近づいてくる。こんな所で刺されてはタマランと思う反面、刺されたら仕事しばらく休めるかしらとか、ボケた想像もしながら路上駐車の車一台分を間に挟む形で、向き合う状態に。 いや~ん、ヤバイわヤバイわ、と焦っていたら、どうやらワタシの自意識過剰だったようで、眼の虚ろな男は刺身包丁握り締めたまま、ワタシには目も合わせずにクルマの横を通り越し、そのまま通りの端までふらりふらりと歩いていく。突き当たりのT字路まで行った男は、そこで急に包丁を振り回して激しく暴れだした。石壁に向かって切りつけたり、ゴミ箱を蹴り倒したり。すぐ近くに停まっていたタクシーが、慌てて急発進で走り出す。 男はそのままクルリと180度方向転換し、再びよろめきながらこちらに向かって歩いてくる。ふらつきながらも包丁のスイングはさらに大きくなり、歩道脇の植え込みの木々をバッサバッサと勢いよく切り落としたかと思うと、横にある自転車を蹴り倒す。 「おいおい、またこっちきたよ」と言っていると、Mさんが携帯でオフィスに電話を入れる。この調子で男がいつまでも包丁振り回していると、そのうちまたうちの残りの社員が通用口からぞろぞろ出てきてしまうので「とりあえず今出てくるな」と残りのメンバーに警告。そのまま今度は、警察に電話。「あのーうちの会社の前の路上で包丁持った男が暴れてるんですけど」。さすがMさん、頭の回らないワタシと違って正義感が強いというか、機転が利いて偉い。 男は、相変わらずふらふらと歩きながら、時々思い出したように刺身包丁を振り回しつつ、どんどんこちらに向かってくる。裏通りから御堂筋に出ると、ちょうどさっき呼んだパトカーがサイレンを消して目の前を走り過ぎる。ワタシは急いで車道に飛び出し、後ろからパトカーを追いかける。ちょうど信号待ちで停まったところに追いつき、窓を叩いてお巡りさんを呼ぶ。「さっき通報した者です、あっちにいますよ」ともと来た方向を指して教える。 そこにパトカーがもう一台急行してくる。計5名の警官が飛び出し、ジュラルミンの盾、木刀のような長い警棒、長い取っ手の先にクワガタのおばけみたいな二股がついた武器を持って、男のいた方に向かって走り出す。「ご主人たちも一緒に来て!」というのでワタシとMさんも全力で後を追いかける。※写真は実際の風景 (次号に続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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