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2007年08月01日
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カテゴリ:雑考生活

先日あるヒトから勧められて、桐野夏生の小説『グロテスク』を読んでみた。
これは、ちょうど10年前に渋谷で起こり、当時かなり週刊誌などで話題にもなったいわゆる「東電OL殺人事件」をモチーフにした小説だが、読んでみるとこの物語は単に事件をトレースし脚色しただけのものではなかった。
⇒「東電OL殺人事件」について確認してみる

この小説は主に、かつて同じ女子校に在籍していた4人のオンナの物語が、ずるずるに絡み合って構成されている。

「ユリコ」は、スイス人の父親と日本人の母親から生まれたハーフで、特に父親の遺伝子の良い所を最大限に受け継いだ絶世の美貌を持ち、幼い頃から周囲の女性たちをその美貌で圧倒しながら、一方で男どもを手玉に取り、生まれ付いてのセックス好きが高じて本物の売春婦となり、若い頃は高級娼婦だったものの中年になってからは安物娼婦に見を落とし、最後は路上の街娼として知り合った客の中国人に、望みどおりに殺される。

「わたし」は、この物語の語り部としての存在であり、ユリコの姉である。ユリコと同じ両親に生まれたハーフでありながら、不細工な母親の良くない所を最大限に受け継いだ冴えない風貌の女で、ユリコの完璧すぎる美貌に生理的な嫌悪感を抱きつつも女としての劣等感を抱え、頭の良さと性格の悪さで妹を跳ね付けて別の生き方を目指すが、やがてすべてにやる気をなくし、周囲の人間に毒を吐きながらひたすら孤独で地味に年をとっていく。

「ミツル」は、常に進学校でトップの成績を修めながらも常に余裕を漂わせる圧倒的な優等生で、「わたし」にとって唯一の親しかった友人。高校卒業後は宣言どおり東大医学部に現役合格し、順調にエリート医師になったものの、その後結婚した夫とともに新興宗教に入信し、殺人事件の実行犯として逮捕され夫とともに服役する。出所後、「ユリコ」の事件の公判で「わたし」と再会する。

「佐藤和江」は、死ぬほど勉強して他の3人と同じ女子校に入り、入学後も自分の存在をアピールするために必死で勉強や運動で努力をするが、何をやっても周囲からは滑稽に見られ無視されるだけの哀れな存在。大学卒業後は父親のコネで大企業に就職し管理職にまで進むが、社内では何も評価されず完全に周囲から浮いた状態。父親が早死にした後、精神のバランスが崩れ出し、平日の夜と週末に売春クラブで働くようになる。売春で金を稼ぐことに猛烈な生き甲斐を感じるとともに会社での奇行は激しくなる一方。ついに精神状態も完全に破綻をきたし、最後は「ユリコ」と同様に売春相手の客に殺される。彼女のキャラクターについては、東電OLの実態をほぼ忠実に再現した設定になっている。

「わたし」も「ミツル」も「佐藤和江」も、みんなかつての「ユリコ」の強烈な美貌にどうしようもない無力感を抱き、それを何か別の方法で対抗しようとしたり存在を否定しようとしながらも、心の底では一生「ユリコ」に屈服する意識にがんじがらめになりながら、オンナとしての生き方を踏み外していく。そして、周囲からは怪物よばわりされながらも、最後まで世間の何者からも一番自由な魂だったのが「ユリコ」である。
男のワタシの見方が当たっているのかどうか知らないが、結局作者が言いたかったのは「オンナの心の世界では、圧倒的な美貌の前には、あらゆる努力や才能や育ちなどは無価値である」ということなのだろう。

それにしてもこの小説、最初から最後まで、彼女たちの「恨み、妬み、嫉み、怒り、嘲り、罵り」などなど、人間の思いつく限りを尽くしたドス黒い悪意のエネルギーに満ち溢れていて、読み終えた時にはホントにどっと疲れが出た。相当ボリュームもあるし。
読み始めた最初の方は、「おいおい、こんなオンナのイヤらしい愚痴と悪口の世界につき合わされるんかい」と辟易しかけていたのだが、途中からは「よくまぁこれだけ罵詈雑言の物語が作れるなぁ」と呆れながらも感心しはじめ、最後はちょっと稀に見る鬼畜的世界観に呑まれた感じである。まぁすごいわ。

しかしこれを勧めてくれたヒトの気持ち、わかるなぁ。だってこれ読んだあとのなんとも言えない読後感を、自分ひとりで抱えていたくないもんなぁ。 誰か読みませんか。






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最終更新日  2007年08月01日 23時55分35秒
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