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カテゴリ:旅行生活
「ガンガーに流される自由」の巻 毎日早起きしているので、この日も朝5時前に目覚める。ガンガービューの部屋の窓から外を見るが、まだ暗い。6時頃本格的に起床し、明るくなってきた窓の外をもう一度覗くと、空は雲が多くて日の出は望めそうもない。 まだ誰もいない屋上のテラスに出てみると、昨夜はよく見えなかったガンガーの全景が、圧倒的なスケールで目の前に広がる。これは壮観。眼下の民家では朝の支度が始まっていて、あちこちから煙が上がっている。その民家の屋根の上を、バラナシ名物の野生ザルたちが、獲物を求めて走り回っている。そういえば20年前も、洗濯して干していたパンツと石鹸をサルに盗まれたっけ。 宿を出て、早朝のガートへと歩いて向かう。できるだけ牛糞に遭遇しないように、なるべく昨夜とは別の路地を歩く。明るい道なら、細い路地もなんてことないんだけどなぁ。しばらく歩くとダサーシュワメードロードに出る。知らないオッサンがワタシを見て、「メインガートはこっちだ!」と力強く指差すので、てっきりダサーシュワメードガートだと思って歩いて行くと、あれれ?その隣の小さなガートに出た。さっきのおっさん、たぶんこのガートのボート屋の仲間か何かなんだろう。ま、別にいいけどさ。 広大なガンガーに向かって、ガートに立つ。また来たかこの地へ・・・と少し感慨に耽ってみるが、インドは旅行者を30秒も放っといてくれない。すかさず客引きのハゲおやじが寄ってきて「ボート乗る?ボート乗る?ボート?」と、至近距離で囁いてくる。「ボートねぇ、乗ってもいいけど現在ワシの全財産50ルピーだよ。」と言うと、「いや、1時間250ルピーだ!」とハゲおやじ。「無理。250なんて高すぎやね」と言うと「ノータカイね。ひとりで貸切だから250ルピーね。」とハゲおやじ。「あっそ。じゃいいや、バーイ」と歩き出すと、「おい、ちょっと、待て待て待て!200ルピーでどうだ!」ときた。「だからさぁ、ワシの全財産50ルピーなの。わかる?」「うーむ、わかる」「じゃあさ、貸し切りじゃなくて全然いいから、あと4人分お客連れてこいよ。それでひとり50ルピーだ。」と言うと、「うむむむ。じゃあ誰か探してくる」と、ハゲおやじは他の客を捕まえに行く。 先にボートに乗り込んで待つこと10分。ハゲおやじがションボリ肩を落として戻ってくる。「ダメだ。誰もいなかった」。「あっそ。じゃ、しょうがないねぇ。50ルピーで嫌なら降りるけど、どうする?」と訊くと、ハゲおやじもついに諦め、2人の漕ぎ手と共に「心斎橋さん専用」となった貸切ボートをギーコギーコと漕ぎ出す。川の中央付近からあちこちのガートを眺めながらボートは進み、ハゲおやじは「カソーバ見るね、カソーバ」と、火葬場で有名な「マニカルニカー・ガート」に向かう。昨晩、宿の部屋の窓からも一晩中この火葬場から上がる煙が見えていたが、実際にここのガートに近づくのはこれが初めてだった。 ボートは、マニカルニカー・ガートにどんどん近付き、ついに接岸する。「ボートを降りて、あそこにいる“カソーバ・マスター”の説明を聞いてみろ」とハゲおやじが言うので、火葬場の真ん中に降り立つ。ランニングシャツ姿の小太りカソーバ・マスターが、たった今運び込まれてガンガーの水で清めたばかりの全身を布に包まれた遺体を指差し、「ほら見ろ、今からこのボディを焼くぞ。こっちの白い布が男で、黄色い布が女だ」と言う。やがて、井桁に組んだ薪の上に乗せられた遺体に火がつけられると、あっという間に火は遺体全体を包み、白煙をあげてバチバチと燃え始める。思っていたほど強い臭いはしない。恐ろしいとも思わない。およそ1時間ほど焼かれた遺体は炭にまみれた骨と灰になり、それらは細かく砕かれてガンガーに流される。おぉ、こういうことか。人として、なんて自由な最期だろう。妙にすがすがしい気分で、何だか急に目の前が明るく晴れるような気がした。<続> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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