パッポンのぼったくりバー
今年は久々に夏の海外バカンス計画を考えていて、やっぱアジアかなぁと思いながら旅行のパンフレットなどをパラパラ見ていて、フト思い出した。十数年前、タイのバンコクをひとりでふらふらしていたある夜、突如、社会見学の一環として「ゴーゴーバー」に行ってみることにした。「ゴーゴーバー」というのはバンコク市内のパッポン通りや、パタヤ、プーケットなどの繁華街に多く、バーのステージやお立ち台の上で店のダンサーの女の娘が天井まで伸びる手すりに掴まりながらクネクネと踊っているバーである。さしたる事前情報もないまま、とりあえずパッポン通りだろうと思って午後8時頃の通りに向かい歩いていると、さっそくゴーゴーバーの客引きが寄ってきて熱心に誘うので、特にアテもないワタシはそのまま彼について、通りから一本細い道に入った2階にある店に「ゴーゴー!」と突入した。薄暗い店内には結構な大音量で音楽が鳴り響き、目の前のお立ち台の上では、全裸のオネーチャンが何人か踊っていた。「うへぇ、いきなり全裸ですか」と思いながらソファの席に座ると、早速4人ほど女の娘がやってきて席の両脇についた。とりあえずビールを飲みながら店内を見渡すと、欧米人のグループが2~3組。日本人はワタシひとりであった。しばらくすると中央のステージでショーが始まり、女性の局部を使ってピンポン玉を飛ばしたり、栓抜きでビールの栓を抜いたり、ローソクの火を消したりと、なかなかの高度な技の連続に欧米人グループは拍手喝采で異様に盛り上がっていた。ワタシの両脇の女性陣は、ショーの間中ずっと「ビール頼んでいい?」「奥の個室でマッサージはどう?」「一緒に外に出ない?」などと交互にアプローチしてくるのだが、「まぁまぁまぁ」などと1時間ほど曖昧に対応していたら、そのうちどこかに消えてしまった。すると入れ替わりに、妙にガタイの良いお兄ちゃんが両脇にドカっと座るので「参ったなぁ、ゲイじゃないんだけどなぁ、ワシ」と思っていると、ひとりが目の前に請求書を「ほらよ」と投げてよこした。見ると、「500B」と書いてある。ビール2本で500バーツ(当時のレートで約2,500円)はちょっと高いんじゃないの?と言うと、「よく見ろ」と言われる。よく見ると、500Bではなくて「500US$」と書いてある。あちゃー、やられた、ボッタクリなのね、と思いながらも鼻で笑って「冗談じゃないね」と立ち上がると、両脇の兄ちゃん達も一緒に立ち上がり、暗くてよく見えないのだが、何やら脇腹に硬くて冷たい尖ったモノをグイっと押し付けてきた。ナイフのようだ。「奥のオフィスに行こうか」と兄ちゃんが言うので「狭いところは嫌いなんだけど」と言って、もう一度ソファに座る。「マネージャーを呼んでくれ」と言うと、「俺の兄貴がマネージャーなので、その必要はない」などとおっしゃる。仕方ないので、ここからは値切り交渉である。まず、「学生なので金がない。スチューデントプライスで、500Bでどう?」と言うと「嘘つくな」と脇腹を殴られる。ムカついたので「ワシはマスコミ関係なんだけど、あんまりえげつないことすると全ての旅行関係のプレスに店の情報流して二度と日本人が来れない様にするよ」と言うと相手はちょっとだけヒルみながら「お前がマスコミ関係という証拠はあるのか」と言うので、思い切り早口で自分の会社ではない某マスコミ会社の名前を言い適当な電話番号を紙に書いて「嘘だと思うなら今からここに電話してみろ、ほれ、今してみろ」と言うと、「OKわかった、じゃあ100$でいい」と言われる。なぜ100$なのか意味がわからないので、「よし、間をとって100バーツ」とあくまでバーツにこだわりつつ、全然、間でもない金額をテーブルに置いて勢いよく立ち上がり、店の入口に向かって歩き出す。兄ちゃん達は慌てて追いかけてきて一瞬肩をつかまれたようだったが、構わず振り切って外に出て「アホボケ」と叫びながら一気に階段を駆け下りた。あまりにムカつくので、パッポンの通りに出てさっきの客引きがいたらケツの一発でも蹴ってやろうかと思って探したのだが、見あたらなかった。興奮したせいか、気が付くと腹が減っていたので、屋台でバーミーナム(汁ソバ)を頼み、パクチーを山ほど入れて食って帰った。後で聞くと、客引きの言われるままにゴーゴーバーに行くのがアホだと。特に、大通りに面していない2階の店は要注意なんだとか。若かったのね。