カテゴリ:★★★★
盆と正月が一緒に来たようなオメデタイ作品だ。ジーン・アモンズとデクスター・ゴードンという、猫麻呂の大好物の二人が「夢の競演」なのである。
この二人の競演作はこの作品以外にないだろう。1970年に実現した「夢の競演」まで、この二人の競演はなかった。1940年代のビリー・エクスタイン楽団でのテナーバトル以来の競演となる。デックス=グレイ組とアモンズ=スティット組に別れ、仁義なき抗争・・・ではなく永遠のライバル関係にあった二人が夢のタッグを結成したのだ。全日本プロレス世界最強タッグ決定リーグ戦で実現した馬場=ハンセン組(懐かしいなー)に匹敵するサプライズなのである。 1970年といえば、ジャグ親分は長いムショ暮らしからシャバに出たばかり。デックスはアメリカを捨てて渡欧中であり、ニューポート・ジャズフェスに出演するために一時帰国していたらしい。まさに「夢の競演」は奇跡的に実現したといえる。 こんな凄い競演だから、さぞや素晴らしい演奏だろう・・・と期待すると「大ハズレ」な気分になってしまうだろう。テナーバトル・チームというのは、チームワークが大切ということなのだろうか?お互いに「吹きっぱなし」という感じがするし、アレンジ等はまったくない。それぞれの得意技を披露するものの、チームプレーとしては今ひとつだった馬場=ハンセン組とイメージがかぶるのはこのせいだろうか? ジャグ親分とデックスは、1940年代には同じような吹き方をしていたはずなのだが、1970年時点では目指す音楽の方向性が離れてしまったというのがこの作品から良く分かる。洗練されたヨーロピアン・バップに生きるデックスは、以前よりも流暢なフレーズを吹くようになっていた。長尺のソロをブローしても、どことなく優雅だし、フレーズは以前よりも細かく作っている。一方でジャグ親分は正反対の方向に向かっているようだ。1940年代には流暢に吹いていたが、フレーズの音数は年々減り続け、シンプルさを追い求めていく。ムショ暮らし後のジャグ親分は指が回らなくなった・・・という説もあるが、ソウルシンガーのように吹きたかったのではないか、というのが猫麻呂説なのである。 この奇跡のライブは、映像で見ることができたら最高だろう。もちろん、生で見たらモノ凄かったに違いない。しかし、音だけ聴いても今ひとつ「萌え」にならない。見たいのは、デックスのソロを見ているジャグの姿やジャグのソロを見ているデックスの姿だ。お互いにどのように感じていたのだろう。そう考えて聴くと、この作品の微妙な味わいが楽しめるかもしれない。しかし、テナーバトルは何も考えずに聴いて楽しむべきものであり、余計なことを考えてしまうこの作品は理想的なテナーバトルとは言い難いのかもしれない。それでも「夢の競演」なのである。テナーバトル・ファンは一度は聴かねばならない作品と言えるだろう。 猫麻呂ポイント:★★★★(4.0) Gene Ammons & Dexter Gordon / The Chase! (Prestige) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年02月15日 13時41分51秒
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