『読書の腕前』岡崎武志(光文社新書)
読み終わって、この本に肩を抱きしめられたように読書欲が増した。実は、この何年かは一生のうちで一番本を読んでいる気がする。だからこんなに沢山読まなかった若い時の時間が、惜しいと痛切に感じていた。で、こんな文章に励まされる。本を読む時間がないという人は、読む時間がないのではなく、読む気になる時間がないのだろう。「本なんて、いつだってどこからでもいくらでも読めるものなのだ。」(P154)そう読書の時間、読書の量は、いつだってどこだってかまわないのだ!そうなった時がお日柄なのだ。安心した。読書について書かれた本はいろいろ読んだけれど、こんなロマンチックなのは初めてだ。読書案内で涙する?してしまったんだ。たとえば、「本の熱病は伝染する―佐藤泰志を求めて」(P161)懇意の古本屋があって、店主と会話する。「先日こんなお客さんが来た。佐藤泰志という作家ご存知?」著者「知っている」店主は知らなかった。自殺した芥川候補に何回かなった地味な純文学作家という。5、6冊しか著書がなく絶版。古本屋でもなかなかない。こんな地味な作家を探している人が、「しかもどうやら中年の主婦らしい。悲しみよこんにちは、と言いたくなる年代である。」とユーモアたっぷり。「いい話だなあ」と胸を熱くした著者は「佐藤泰志」を頭に入れて、他の古本屋巡りの時探してしまい、見つかればその店主に知らせてあげる。そうしているうちに「佐藤泰志」熱が感染してきた。調べてみた。「あつ!」と意外な事実がわかった。(それは伏せます)ガツンと錨をぶちこまれ、自分も買い始め読んでみた。そうしたらいいんだ!この作家の作品が、と著者。「見知らぬ人から本の熱が伝染した」という話。ほろり。私も読みたくなった、紹介されている佐藤泰志の『海炭市叙景』というオムニバス作品。こんな挿話がところどころにはさまって、本好きの本読み応援歌&心得指南。たまらない。もちろん私の知らない作家、作品を話題にしたものが多く、読みたい本が沢山できてしまったけど、私には『悲しみよこんにちわ』、『ヘンリ・ライクロフトの私記』、『アレキサンドリア四重奏』、堀辰雄などが、つぼにはまって親しみを覚えたのである。読子さんのブログを拝見してすぐ本屋へ走り、即、読んでしまったのだった。