「生けるパスカル」松本清張…宮部みゆき責任編集松本清張短編コレクション(下)文春文庫より
清張氏の短編はほとんど読んでいるが、これは初。宮部みゆきさんの選んだ松本清張ワールド。図書館の順番が(下)が先にまわってきた。(なによ!)そんなことはともかく、とても面白く読んだ。さすが宮部さんがお選びになっただけあって含蓄があった。ちょうど私の関心事とも合致したのかもしれない。お題「生けるパスカル」の「パスカル」を、『「人間は考える葦である」と唱えた学者の「パスカル」ではない。』と語る宮部さん。確かにそうなんだけど、ちょっと関係があるのよ、そこが憎い。考える葦だよ、悩むんだよ、人間は。『人間の本当の生命と、人々が安住している虚構の世界との関係』(P73)要するに、自分が思っている理想の生き方はなかなか出来なくて、実際の人生は虚構の世界のように創っていかなくてはならない。私たちは虚構の世界を見ようとして本などを読むが、本当は実人生が虚構の連続なのかもしれないという、極限状態の恐ろしさ。イタリアはノーベル文学賞のルイジ・ピランデルロの作品「死せるパスカル」を例に引いて述べるられている。(ピランデルロって本当にいたの?)私は上記のところにぐっと来たのだが、この短編の結末はやはり松本清張ワールド、期待通りなのだけれど…。 さて、(下)で未読なのはもうひとつ「骨壺の風景」…「半生の記」とダブり、涙した。清張氏の原点。後は宮部さんの語りと松本清張受賞作家の寄稿を楽しんだ。松本清張受賞作家…山本兼一(2004年11回)、森福都(1996年3回)、岩井三四二(2003年10回)、横山秀夫(1998年5回)らの一文。こんなにも清張氏は暖かく愛されていたのかかと驚いた。嬉しかった。賞を頂いたからという訳でもないだろう。「支払いすぎた縁談」「帝銀事件の謎」「鴉」「西郷札」「菊枕 ぬい女略歴」「火の記憶」久しぶりに松本清張の作品に触れてみて、どれもこれも今読んでも面白いこと請け合いと思う。この宮部みゆき責任編集松本清張短編コレクションは、このごろの入れこしゃりこの小説ばやり、このような企画ならば古い清張氏の小説も蘇るだろうよと、企画妙味、効果があるといいねと老婆心。 ところで、私は清張作品をほとんど読んだと豪語していたのだが、それはうそだった。持っているのが自慢な文藝春秋社の「松本清張全集」は38巻まで。(第1期というらしい)そこまでしか読んでいなかったのだ。私は1974年(昭和49年)以後購入していない、その後調べてもいなかった。(汗)文藝春秋社の「松本清張全集」は第3期まで66巻もあるらしい。オアゾの「丸善」で見たよ。よくも次々と出したものだ。清張氏の膨大な著書よ!ちなみに古いのと装丁は同じ。値段は当時880円、現在は3,262円。おおーぉ。