『へぼ侍』坂上泉
若い時代物作家の作品。なるほど、松本清張賞受賞は「西郷札」が描かれているからではないのだと、納得のおもしろさでした。生活のため商家へ奉公していた主人公は、明治維新で没落したもと侍、威厳を取り戻したく、西南戦争に参加してほんとの侍になろうとしたのか。歴史上実在の人物たちを登場させて交錯し、主人公を生き生きとさせる術はなかなかのもの。例えば新聞記者(そうだったのですね)犬養毅は主人公の道しるべになり、有名な乃木希典にも会い、もちろん西郷隆盛にも逢ってしまう。けがを治療してもらった軍医の手塚は、解説を読むまでわからなかったが、最後の最後に登場する大毎新聞の記者は、わたしの好きなある作家とおぼしき、謎解きの愉快さでした。次作品の『インビジブル』は直木賞候補になって、こちらもおもしろいとか、期待の新人ですね。