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テーマ:ささやかな幸せ(6742)
カテゴリ:お散歩日記
銀座で待ち合わせの時間つぶしに、喫茶店に入る。
同じビルの中の本屋さんには何度となく足を運んでいるけれど、喫茶店に入るのは初めて。 閉店まで40分くらいしかなかったので、「いいですか?」とたずねたら、「だいじょうぶですよ。7時閉店ですけれど、7時半くらいまで私はいますから」と品のいいご婦人が席に通してくれる。 わたしのほかに客は2組ほど。 内装は清潔感のある白で、けれど浮ついた感じはなく、歴史を感じさせる静けさに満ちている。 インテリアも音楽も椅子の座りごこちも窓からの眺めも、すばらしくわたし好み。 近くに座った上品な男女が、静かなトーンで文学談義などしている。 何気なく頼んだカフェオレも、思わずメニューを見直してしまうほど、おいしい。 最近流行りの「カフェ」ではなくて、由緒正しき「喫茶店」という感じだ。 ここはいいなあ。 これからは銀座に来るたび通ってしまいそうだなあ、と思いながら、約束の時間が迫ってきたので、後ろ髪をひかれる思いで席を立つ。 店員のご婦人は「あら、まだだいじょうぶなのに」と遊びにきた知り合いを引き止めるように言う。 「本当はもっといたいんですけれど。約束の時間があって」とわたし。 「お仕事、してらっしゃるの?」 「はい」 「まあ、そうなの。がんばってね。実は、あなたが入ってこられたとき、とても素敵な方だから、ここで働いてもらえないかなあと思ったのよ。長く働いていた女性が、最近就職のために辞めてしまったの」 「そうだったんですか。ここ、初めて入ったんですけど、とても雰囲気のいいお店ですね」 「本当に、あなたのような方に働いてもらえたらと思ったのだけど。土日だけでも」 「ありがとうございます。また来ます」 「ええ、またいらしてね」 …ああ、どきどきした。 感じのいい喫茶店で店員にスカウトされるなんて、吉田篤弘の小説みたい! こんなことが、まさか自分の身の上に起こるとは! 嬉しくて、三越前の交差点を渡りながら、顔がにやけてしまう。 モデルにスカウトされるより(まあ、間違いなくありえないが)、絶世の美男子に求婚されるより、銀座のこじんまりした喫茶店の店員に誘われるのがわたしにはうれしい。 それは憧れている自分の姿に、かなり近いから。 何かすごい技術やサービスを提供するわけでなく、話をするのも注文のやりとりくらい。 でも、運ばれてくるコーヒーは当たり前においしくて、お客さんがほっとできるあたたかさと自由な雰囲気がある。 大切な人たちにそういう場所や空気を提供できる自分になりたいと、いつも思っているから。 10年後、また訪れても、「ここで働きませんか?」と声をかけられるわたしでいたいなあ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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