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テーマ:絵が好きな人!?(4301)
カテゴリ:お散歩日記
妹がやってきた。 大きなスケッチブックを抱えて、電車やバスや飛行機を片道8時間も乗りついで。 どこへ行くにも大荷物(おもに本)を引きずって歩くわたしを、 「いったい何が入ってるのさ」とあきれ顔で見ていた妹。 「絵を描くようになったら、お姉ちゃんと同じになっちゃったよ」と笑った。 妹はこの春、ずっと好きだった絵を、本格的に学びはじめた。 スケッチブックを見せてもらう。 ああ、皮を脱いだのだな、とわかった。 あたたかい繭の中で、絵筆をあやつり、色彩のなかにあそぶ夢をみつづけていた妹。 時が満ちて、殻をやぶり、飛びたつことを選んだのだ。 外の世界は安全なことばかりじゃない、むき出しの姿で飛ぶには勇気もいる。 でも、空はこんなにも明るくて、世界には無数の色があふれている。 水先案内人をつとめてくれる先生も、妹はちゃんと自分の手で見つけた。 だからわたしは妹に、忠告よりも祝福を贈りたいと思うのだ。 わたしが知っていて、妹が知らないこの世界の美しいもの、ひとつでも多く見せてあげたい。 そうしてあの子が、一枚でも、ひと筆でもたくさんの絵を描けるといい。 家の周りを散歩する。 見なれたはずの景色が、妹と歩くと、まるで知らない場所のよう。 色鮮やかな花にばかり目をうばわれるわたし。 おもしろい形や、一見グロテスクな色づかい、ふしぎな線に目をとめて、しゃがんだりのぞきこんだり横から見たりする妹。 大けやきも、バラも、さくらんぼの木も、妹は体の中に取り込むみたいにしてじーっと見たり、においを嗅いだりしている。 わたしもその横で、ひととき絵描きの気持ちになって木や花を観察してみる。 あんまり長いことわたしたちが木を見ているので、くまは階段に腰かけてうつらうつらしている。 それはそれで、ご神木との正しい付き合い方。 仕事で疲れているのに、たくさん運転してくれてありがとうね。 夜はハーブティーを淹れて、描くことや書くことについてたっぷり話しあう。 集中が深まったときの体の感じ。出来上がったものを誰かに見せるということ。 描きはじめること。書きつづけること。 心をひろびろと保つ大切さ。 思い描くことからすべてがはじまる。 子供時代をすごした環境はもちろんだけど、読んできた本や見てきた絵も何となく重なるので、「10」を言わなくても「1」でびびっと通じあえるのが、姉妹の楽しいところ。 二晩泊まって妹が帰った後は、家の中が急にがらんと広くなったようで、少し寂しかった。 けれど、妹が置いていってくれた目に見えないお土産は、わたしの中にまだまだたくさん残っていて、書いたり、読んだり、家事をしているときにふとわき上がってくる。「ああ、そういうことだったのか!」と新しい発見をさせてくれる。 遠い西の町で、仕事を終えたあの子が、夕日を背に手を真っ黒にして鉛筆を動かす姿を思いうかべると、何だか勇気が出る。 同じ屋根の下に暮らすことはなくても、わたしは妹の絵を見ることができるし、妹にはわたしの物語を読んでもらうことができる。 それはわたしたち姉妹にとって、この上なく豊かなギフトだなあ、と思うのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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