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カテゴリ:図書館日記
十年来のともだちが遊びに来る。 各駅停車を乗り継いで、片道5時間かけて。 あれもこれも見せたくて、食べてほしいものもたくさんあって、大いそがしの旅。 未熟なツアーガイドに付き合ってくれて、ありがとうね。 また日本のあちこちで、おいしい酒をのもう! * 職場の研修。 東京から、はるばる大学の先生がやってくる。 わたしは司書の資格を持っていないから、「図書館学」というものに触れた経験がほとんどない。 どんなものかな…とこわいような気持ちでいたのだけど、ふたを開けてみたら、すごくためになることばかりで、目からウロコがぼろぼろ。 教えてもらったことを、次の日からすぐ現場で使えるって、こんなに面白いんだ! 「こういうものだから」と言われるまま口にしていた言葉や動作、ひとつひとつに理由があったことを知る。 意味がわかれば、言葉に命を吹き込むことができる。 知識って、こういうふうに使うんだな。 仕事をたくさん抱えていたこともあって、ちょっと頑なになっていた心に、外から風穴を開けてもらったような感じ。 壁をやぶっては、また新たな壁にぶつかり、逃げ出したくなるのをぐっとこらえて取り組んでいく。 仕事って、そのくり返しだ。 毎日同じことをしているようで、一日として同じではない。 らせん階段を上るみたいに、だんだん見晴らしがよくなる。 遠くの景色が見えるようになる。 堀江敏幸「回送電車」を読む。 たとえば、空っぽのまま灯りをつけて走る回送電車。 あるいは、「となりのトトロ」の冒頭に登場する三輪トラック。 巻き煙草を上手に巻くコツ。 ゴルバチョフという名の猫。 ドナルド・ダックのポップコーン。 世界の片すみにひっそりと息づくそれらのものたちを、堀江敏幸は慈しみに満ちた真剣なまなざしで、ひとつずつ掬い上げてゆく。 「特急でも準急でも各駅でもない」回送電車のように、「評論や小説やエッセイ等の諸領域を横断する」、堀江敏幸にしか書けない、魅惑的な文章で。 端整で心地よい、作家一流の文体をひらひら追いかけながら、読者は見知ったものの新たな表情に感嘆し、くすりと笑い、目をとじて考えこみ、最終ページにたどり着くころには、胸の内に小さなあたたかい灯がともっているのを発見することになる。 ――というのが、「回送電車」を読了したわたしの印象。 ところで堀江氏は、文学作品の梗概について、本書の中でこんなふうに述べている。 「梗概にはこうした書き手の視点と読みの深さがすべて刻まれるのだ。自身の足場が不安定な者は永遠に手控えるべき、恐ろしく繊細な感性のリトマス試験紙なのである。」 わたしのつたないリトマス試験紙を画面の向こう側から眺めると、いったい何色に見えるだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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