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カテゴリ:図書館日記
雨が降って、秋が来た。 走るのもずいぶん楽になって、すがすがしい風と一緒にどこまでも行けそうな気がする。 ジョギングをはじめるなら今ですよ、皆さん! この季節に、akikoの「Girl Talk」など聴きながら窓を開けて本を読んでいると、就職して最初に暮らした港町を思い出す。 海岸通りの喫茶店や、丘の上の洋館。 友達が連れていってくれたドライブ、波止場で仲間と花火をしたこと。 マンションの窓から見えた、ハワイみたいな夜景。 たいへんなこともいろいろあったはずなのに、つらい記憶はだんだん風に飛ばされて、楽しかったことばかりが残っていく。 あの街を、わたしは本当に好きだったなあ。 アルベルト・マングェル「図書館 愛書家の楽園」を読む。 原題は「The Library at Night」。 図書館好きには堪えられないタイトル。 もっともここでいうLibraryは、「図書館にかぎらず、書斎や書庫など、複数の本が集まった状態、または場所」を指す言葉らしい。 著者アルベルト・マングェルは、アルゼンチン生まれ。 作家というより、稀代の読書家と呼びたいような人物。 (日本でいうなら、松岡正剛さんみたいな) 若いころ、目を病んだボルヘス先生のため本を朗読した経験が、かれのその後の読書歴、執筆歴に決定的な影響をおよぼすことになる。 * たとえば、建築物、あるいは芸術品としての図書館。 あるいは、破壊、略奪、火を放たれた図書館。 作家とその書斎。 魂の治療所としての図書館。 ロビンソン・クルーソーの聖書。 世界中のすべての本を所蔵しようとしたアレクサンドリア図書館。 ロバの背に乗せて運ばれる巡回図書館。 ネモ船長の書斎。 ドラキュラ伯爵の蔵書。 フランケンシュタインの哀しい読書。 世界中のあらゆる本(そんなことはありえないのだけれど、比喩的な意味で)を読んできた著者が、“Library”の言葉から連想される、ありとあらゆる図書館、書斎、個人の蔵書について、ボルヘス直伝の想像力のつばさを羽ばたかせ、縦横無尽に書きつづる。 * 紀元前7世紀のライブラリアンが辞書に書きしるした文句には、時を越えて図書館員の共感をさそうものがある。 「この銘板の置き場をたがえず、書庫の別の場所に移動させない読者にイシュタル(古代メソポタミアの戦いの女神)の恵みのあらんことを。また、これをこの建物の外に持ち出す者にはイシュタルの怒りの鉄槌が下されんことを」 * 戦火に焼かれ、侵略者によって破壊されて二度と読めなくなった本のことを思うと、地団駄を踏んで大声でさけび、天を仰ぎたいような気持ちになる。 人の歴史、日々の暮らし、思想、文化、積み重ねてきた営みのすべてが本であるのに。 それは人が人である所以、暗やみに灯る一本のろうそくなのだ。 光を失うのは、吹き消した当事者もまた同じであるのに。 それでもまた、人は言葉を書きつけて新たな本を編み、それを集めてLibraryをつくる。 その本が、いつか誰かの道しるべ、魂を救う最良の友になると信じて。 肉体の寿命が尽きても、本が人類とその知恵を永遠に生かしてくれると望みを託して。 強制収容所で、一冊の本を手にしたある囚人の言葉が、人と本の関係を端的に、切なく美しく表現している。 「その本は、私をけっして裏切らない親友だった。絶望したときには励ましとなり、私が孤独ではないことを教えてくれた」。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.09.13 18:31:18
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