|
テーマ:日々自然観察(9781)
カテゴリ:お散歩日記
春風にさそわれて、散歩に出る。 オオイヌノフグリが、小さな青い星みたいに、果樹園の下草に散らばっている。 ハコベの白い花、赤むらさきのヒメオドリコソウ。 スイセンは黄色いつぼみがふくらんで、気の早いのがちらほら咲きはじめている。 去年の同じころ走って通りすぎていた道を、今年はてくてく、ゆっくり歩く。 自然と足もとに目が向く。 速さがちがうと、景色も変わるものだな。 折り返し地点の川辺に着くと、対岸の工場ではたらく人が、シャツ一枚でキャッチボールをしていた。ちょうどお昼休みの時間。 ぽっちり芽を出した八重桜の枝で、スズメがチュルルと鳴いている。 トンビが気持ちよさそうに、羽をひろげて青い空を滑っていく。 川の水音が涼しいくらいの陽気で、山の雪も中腹まで融けた。 もう間もなく、桜が咲くだろう。 体調の変化に地震がかさなって、もう長いこと遠出をしていない。 「遠くへ行きたい」という漠然とした憧れを抱いて暮らしているせいか、これまでに住んだり、旅をした遠い街の記憶がしきりに思いうかぶ。 就職して間もないころ暮らした港町。通いつめたビストロで食べた、春野菜のペペロンチーノ。 結婚前に住んでいた下町の、大きな神社。緑のにおいがする境内の横を、自転車で通りすぎるのが好きだった。 近いところでは、去年の夏にくまの家族と出かけた箱根の温泉街。 道ばたに車をとめて、大いそぎで買ったソフトクリームを、みんなで食べたっけ。 つまりこれが、「目の中にしまっとけるもの」ってことなのかな、と思う。 「目の中にしまっとけるもの」というのは、幸田文さんが娘の青木玉さんに言ったことば。 「おばあさんがただ寝てたってつまらない。病んで動けない時に、じーっと思い出してるだけで気持ちが動くような、目の中にしまっとけるものがあるといいよ」 (「クウネル」vol.35 2009.1.1号「幸田文の生活学校」より) 今、雪国で暮らしているこの時間も、目の中にしまわれるのかな。 そうしていつか、未来のわたしが別の場所で思い出して気持ちを動かす、そんな日が来るのだろう。 だから今はこの場所で、移り変わる季節を目に焼きつける。 見ることのできるもの全部、目の中にしまって、次の町へ持っていく。 遠くからながめれば、人生全体が、たぶん長い旅みたいなものだから。 …なんてことを思いながら洗濯物を干す。 明日、晴れたら、また散歩に行こう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011.04.17 16:57:10
コメント(0) | コメントを書く
[お散歩日記] カテゴリの最新記事
|