秒速5センチメートル
連作短編アニメーション「秒速5センチメートル」を観る。なんて綺麗な絵。いつまでも、ずーっと見ていたい。見なれた新宿駅も、知らない岩舟駅も、このアニメーションの絵でみると、なつかしくて涙がこぼれそうになるのだ。誰かに会いにゆく電車の中、その永遠のように長い時間や、雪が吹きだまるホームの感じ。こんなにきれいな、文字通り絵に描いたような初恋は知らないのに、その気持ちわかるよ、と貴樹や明里に話しかけたい気持ちになる。10代の、ほんの一時期にしか存在しない儚さ、懸命さ、不安、気が狂うような切なさ、行き場のない衝動。淡くやさしい絵が、こぼさないよう壊さないよう、ていねいにそれらを掬いとる。そして主題歌、山崎まさよしの「One more time, One more chance」の存在感。三話めは、半分PVみたいになっていたもの。曲だけで泣かずにはいられないのに、こんなに美しい絵をつけるなんて、ずるい。この映画を観ながら、あなたは何を思っていた?とくまに聞こうとして、やめた。そして四半世紀ぶんの、それぞれの歴史を背負った別の人間が、ある日突然家族になって、ひとつ屋根の下に暮らしているふしぎを思った。夏の夕方、窓を開けて、風通しのいい部屋で観るのにぴったりの映画。