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カテゴリ:日本の小説
福井晴敏
『Op.(オペレーション)ローズダスト』(上・下) 文藝春秋 『亡国のイージス』を凌ぐスケールのサスペンス・アクション。 例によって分厚い本なので怯んでしまい、なかなか読み始める気になれなかった。が、読み始めると、やはり面白いので一気に読み終えた。 この作品は、これまでの作品よりもメッセージ性が強くストーリーもよく構成されてはいるのだが、面白さでは『亡国のイージス』『終戦のローレライ』のほうが上かもしれない。ここでは、福井晴敏作品の売り物である、登場人物、メッセージ性、爆発、の三点について『Op.ローズダスト』の感想を記す。 まずは登場人物について。主役を張る男性陣は、これまでのように、冴えないロートルと凄腕だが人間性に乏しい若手のペア。物語に色香を添えるべきヒロインは、冒頭に登場するプロローグで登場した後、話しが本格的に始まる前に死んでしまう。しかし、その死んだヒロインを巡る想いが話を引っ張っていく構成になっているので、直接は暑苦しい男たちを描きながらも、話しが進むに連れてその女性の魅力が語られていく。また、サブヒロインとして主人公の娘が登場し、硬派な話に華やかさを与えている。 話のメッセージについては、「新しい言葉」の内容がいまいち明確ではないのが残念。まあ、それを模索する話なので仕方がないといえば仕方がないのだが、新しくて斬新な政治思想を紹介すればもっと話に深みが出てきただろう。対米従属一辺倒で主体性を欠いた戦後日本外交やセクショナリズムなどを批判するシーンは読み応えがあっただけに、なおさら残念だ。もっとも、「新しい言葉」を探すのはとても困難である。 以前このブログで紹介した『「昭和」をつくった男』は、昭和期の右翼を、「新しい言葉」を提唱した男たち=「新体制構築派」と、「古い言葉」を破壊したものの「新しい言葉」は発見できなかった男たち=「現状破壊派」に分けて見ていくという本だった。その分類でみると、『Op.ローズダスト』のテロリストたちは「現状破壊派」ということになる。次の小説の主人公達には新体制を構築してもらいたいものだ。 福井晴敏はいまも雑誌などで外交や政治問題についてコメントしたり対談したりしているが、福井晴敏独自の「新しい言葉」がもっと明確になれば、いま以上にコメントを求められること機会が増えるだろう。 最後になったが、爆発のシーンはこれまでの作品の中で一番凄かっただろう。これまでは沖縄の米軍基地しかり、イージス艦しかり、潜水艦然り、これまでの作品では爆発するのは特殊な場所に限られていた。しかし、今回は東京のど真ん中で何度も何度も爆発する。クライマックスでは、特殊な爆弾による波状攻撃でお台場が液状化をおこし沈み始める。有明清掃工場とダクトを使ったトリックは、かなり斬新でスリリングだった。 オウム真理教の地下鉄サリン事件を意識したテロ事件や9.11のテロについて何度も言及されている。我々はこれらのテロに、「小説や映画を越えた現実のテロ」の恐ろしさを見せ付けられてしまった。それゆえ21世紀を生きる我々を唸らせる小説には、9.11などの現実のテロを上回る規模と破壊力を持つ必要がある。かつ、あまりに大袈裟すぎても荒唐無稽なギャグになりかねないので、現実問題として認識できる範囲に収めなければならない。 この作品のテロシーンは、派手でありながらリアルに克明に描かれており、読者の期待にしっかり応えてくれている。爆発シーンに関しては、本作品が福井晴敏の作品の中で最高傑作だろう。まさに、自称「爆発小説作家」の面目躍如といった作品である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.03.13 13:11:46
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