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ソクラテスの妻用事

ソクラテスの妻用事

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2022年04月25日
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カテゴリ:ブログ冒険小説

ブログ冒険小説『闇を行け!』15

大きいサイズのウクライナの国旗 


ウクライナの栄光は滅びず 自由も然り
運命は再び我等に微笑まん
朝日に散る霧の如く 敵は消え失せよう
我等が自由の土地を自らの手で治めるのだ

自由のために身も心も捧げよう

今こそコサック民族の血を示す時ぞ!
​​
(ウクライナ国歌『ウクライナの栄光は滅びず』・訳詞より)


(主な登場人物​​)​​​

 

・堀田海人(ほった かいと)札幌の私大の考古学教授。
・十鳥良平(とっとり りょうへい)元検察庁検事正。前職は札幌の私大法学部教授。現在、札幌の弁護士。

・榊原英子(さかきばら えいこ)海人の大学の考古学教授。海人の妻。
・役立有三(やくだつ ゆうぞう)元警視庁SAT隊員 十鳥法律事務所の弁護士。
・君 道憲(クン・ドホン)日本名は――君 道憲(きみ みちのり)
・武本 信俊(ムボン・シジュン) 君の甥 韓国38度線付近の住民 
・ムボンの父 通称は「親父(アボジ)」
・ムボンの母 通称は「ママ」


(15)

 軍用トラックは、暗闇の公道を東へと進んでいた。
 これまで25km走ったが、すれ違う北朝鮮の軍用車はなかった。だが運転しているクンの胸の内で、少しづつ波打ち出していた。北朝鮮は常に戒厳令を敷いているから、検問所があるはずだ!
「ムボンよ。そろそろだな」
「クン兄。俺の体もそう疼いているよ」
 クンがマイクで告げた。
「役立さん。先生。検問所がありそうだ」
 クンの声を聞いた役立と海人が、互いを見てまなじりを上げた。
帰りは怖いと、覚悟しているよ」海人が言った。
「今までが順調だったからな」役立が言った。
 海人も役立つも、やけに冷静だった。十鳥チーム自体が、危険な状況――そもそも南進トンネル突入、北朝鮮潜入、基地強襲、そして‶将軍様への呪いかけ″――の計画策定時から、腹を括っていた。大胆であり、繊細であり、機械工学でいうところのテンションとも言える遊びを絶えず持っている十鳥のチームである。張り詰めた糸は切れ易い。だが心に遊びがあると、張り詰めた心を調整し、冷静に対応できる。これが十鳥の並外れた持ち味で有り、十鳥を尊敬するチーム員も持ち合わせているものなのだ。類が類を引き合わせているように。
 クンが前方の彼方に検問所の灯りを捉えた。
「検問所あり!」
「了解!」皆が答えた。
 数十秒後、検問所に着いた。兵士2人が立ちはだかり、手で、停まれ! と合図して携帯ライトで運転席を照らした。そして兵士が運転席側に近づいて来た。
 クンはドアを開け、車から降りる。助手席のムボンが消音装置付きの拳銃を軍服に隠し持つ。
「いやあ~ご苦労様。我々は特殊任務で10km先のトンネルに向かっている」クンが特殊任務を強調して言った。兵士がクンの任務に理解したかのように、
「特殊任務ですか。本部からそういう連絡が無かったのも頷けます」と言った。が、躊躇しつつ、クンに言った。
「一応、身分証を見せてください。確認させていただきます」
 クンが軍服の胸ポケットからIDカードを取り出した。それは北朝鮮軍偵察総局幹部の身分証である。
 IDカードに目を通した兵士が、
「偵察総局の……失礼しました!」と言って、背筋を張り敬礼した。兵士が検問の車停止バーにいる兵士に、手で合図した。通過よし!
 クンはトラックをゆっくり動かし、検問所を通って行く。
 去って行くトラックを見送っていた兵士が、はたと気づいた。偵察総局の幹部は、軍服でなく背広のはずだ! それに彼は若すぎる! 偵察総局の次長にしちゃ! いつもは乗用車のはずだ! しかもトラックのナンバーは……本部に確認すべきだ! あの幹部の名は……キム……将軍様の一族……いや、キム姓は大勢いる……
 そう思案して、兵士が無線機で本部に連絡した。

 クンは急いだ。だが、胸の内が漣(さざなみ)立ってきた。
「役立さん。追っ手の車両に警戒してくれ! 俺は次の検問所を警戒している。検問所があればだが」
「了解」役立が答えて、ライフル銃とRPG対戦車擲弾発射器を手に持った。
「先生。身を伏せてください。私の背後で」役立が海人に言った。海人が床に腹ばいになった。
 皆は防弾ベスト――クンがネットで購入した3万円ほどの代物だ。高額なケプラー社製でないが、不織布製で2kgと軽い。不織布と言えば、コロナウイルスの貫通を防げる。原理は同じで、何重にも重ね合わせた不織布の素材が違うだけだ。これでも拳銃弾、小銃弾の貫通は防げるし、そう厚くはない。役立と海人は潜入時から迷彩服の上に着ている。クンとムボンは、北朝鮮の軍服の下に着こんでいる。因みに米国等の特殊部隊の防弾ベストは、数十万する高性能の防弾・防爆対応のそれである――の緩みを直した。

 十鳥が腕時計を見た。夜半を過ぎていた。
「十鳥さん! 来たよ!」親父が、洞窟入り口に立ち声を張り上げた。
「親父殿。来たか――待っていた。工作員の仲間を捕獲したのは、さすがだ」
「十鳥さん。そこの真っ裸の工作員が隠し持っていたメモと、仲間の工作員は、今回の‶将軍様への呪いかけ作戦″での望外の成果かも知れない。奴らの始末は、4人が戻ったら、十鳥さんと皆で相談したい」
「親父殿の言う通りだ。貴国の情報機関に、単純に委ねる訳にゃいかなそうだからな」
「十鳥さん。私もそう思っている。奴らは根を深く張っていそうだ」
「親父殿。トンネルの武器庫に、まだ4人の貴重な情報材がいるが、2人で回収に行かないか?」
「了解した。潜入のクン等が戻る前に運ぶとしましょう」と親父が言って、トンネルの穴に歩を向けた。

 脱出のトンネルまで、あと5kmだ、とクンが呟いた時、前方に小さく光る点が見えて来た。段々と点が大きくなって来た。検問所だ! 今度はやばそう!
 
クンがマイクで後部にいる役立、海人に知らせた。
「検問所あり!」
「準備よし!」役立が答えた。
 検問所の前で5人の兵士が、AK自動小銃を構えている。戦闘態勢を敷いていた。
「やばい」ムボンが言い、窓を開けた。そして消音拳銃を手に持ち膝に置いた。クンは窓を開け、トンネルの武器庫から持ち出した旧型のAK自動小銃を右手に持つ。
「いったん停車する素振りをするが、急発進して突破する」クンがマイクに告げた。
「了解! 準備OK!」役立が答えた。伏せながら海人が、RPG3器を抱えた。
 トラックが近づき速度を緩めた。
 5人の兵士が前を塞いでいる。中央の兵士が自動小銃を持ち上げた。
「突破だ!」クンがマイクに怒鳴り、急発進する。クンは片手で窓から自動小銃をバラバラと横に払い撃つ。助手席のムボンも撃つ。
 停止バーを打(ぶ)ち破り、トラックは検問所を突破する。が、公道の両脇に2台の武装装甲車がいた。
「武装装甲車2台! 先手だ!」クンが怒鳴った。
 幌後部の役立が、RPGの狙いを定めた。撃った!
「クソ!」役立が罵った。外れたのだ。海人がRPGを役立に渡す。
 役立が撃つ! 海人が渡す。役立が撃つ! 装甲車の姿が噴煙で消える。海人が最後のRPG3器を役立に渡した。
 役立は装甲車を破壊したか、目を凝らすが、遠ざかるトラックからは見えない。闇だけだ!
「クンさん。当たったか分からない」役立がマイクに言った。
 バックミラーを見たクンが言った。
「追って来ていない。あと5分でトンネルだ。いずれにせよ、バレた。戦闘態勢維持だ!」クンが告げた。
 ムボンがライフル銃の銃床でフロントガラスを砕く。顔に冷えた空気が当たり、火照った頭を冷やしてくれた。ムボンが狙撃ライフル銃をフロントに突き出した。

 トラックは漆黒の闇を疾駆した。‶闇を行く!″ それだけは予定通りだった。
 トラックが公道のトンネルに近づいた。トンネルの入り口の薄明りの中、4人の兵士が道を塞ぎ、AK自動小銃で狙っていたのが見えた。100m手前で、クンが速度を落としトラックのライトを消すと、ムボンが狙撃ライフルを撃つ、撃つ、撃つ、撃つ。
 兵士たちが倒れたのを確認したクンは、トラックを加速させた。
「入り口の兵士たちを無力化した。これからトンネル内のトンネルに行く。だが、トラックから降りるのは公道のトンネル内だ。そこから南進トンネル入り口まで走る。そこにも敵はいるかも知れない」クンがマイクに告げると、トラックはトンネル内に入った。
 この先20mで右折すると、南進トンネルの駐車場だ。クンはトラックを停車させた。と同時に、皆がトラックから降り、クン、ムボン、海人、役立と縦列になった。
 南進トンネル内から車のライトの照明が伸びていた。敵がいた!
 クンが顔半分出して駐車場を覗く。南進トンネルの入り口両脇に四輪駆動車2台がライトを点けて、公道を照らしていた。兵士の人数は確認できない。
「ムボン。2台の車の照明を撃ってくれ」クンがムボンに耳打ちした。
 ムボンがクンに代わり、前に出た。ムボンが躍り出ると、伏せてライフルを撃つ。車の照明が消えた。と同時に、車の方から一斉射撃だ! 自動小銃の射撃だった。
 ムボンは転がり、向こう側の壁に身を隠す。
「敵は4人」ムボンが言った。
「RPGをかます。と同時に一斉反撃して突入する」クンが言った。
 役立がクンにRPGを渡す。
「行くぞ!」と言うなり、クンが半身を出し、RPGを撃ち放した。1台の車に当たり、ひっくり返った。焔立つ!
 ムボンとクンが駐車場に突入し、撃ちまくる。敵の銃弾も放たれる。役立も転がりながら、クンの横に行き、自動ライフルを乱射する。ムボンが手榴弾を投げる。もう1台の車のところで爆発した。
 海人が公道の前と後ろに目をやる。後ろの方に車のライトが近づいて来るのが見えた。
「追手が来た!」海人が大声で告げた。
 クンらが撃ちまくった。そしてクンが怒鳴った。
「敵の反撃が無い! トンネルに突入だ! 追手が着く前に! 先生!」
「今行く!」海人が駐車場に走った。南進トンネル入り口前で燃えている車を目がけて、50mほどだったが。南進トンネル入り口にクン等3人が待っていた。
 追手の装甲車が駐車場に現れた時、クンが入口扉の鍵部分を撃ち、ムボンと役立が扉を開ける。
「先生と役立さん。ここはムボンと俺に任せて、先に行ってくれ」クンが言って、ムボンと防御姿勢をとった。
「先に逃げる。100mのところで待っている」役立が言って、海人の背を押した。
「了解した」クンが答えて、AK自動小銃を撃つ。が、弾切れだった。すかさずムボンが手榴弾を投げる。クンが弾倉を取り替えると、装甲車からの機関銃弾が扉を破壊する。
「ムボン! 俺たちも逃げるぞ!」と言った時、クンの肩を機関銃弾が抉った。
「クン兄。どうした? 逃げないのか?」
「肩をかすめ撃たれた。俺の顔に暗視ゴーグルをかけてくれ」少しよろめいたクンが答えた。それを見たムボンが最後の手榴弾を装甲車に投げる。
「クン兄。トンネルにランタンが点いているよ。暗視ゴーグルは要らないよ」そうムボンが言って、クンの腕を支えてトンネルの奥へ後退(あとずさ)って行く。
「ムボンよ。俺の手榴弾を使え」
 ムボンがクンのベルトから手榴弾3個を取る。
「クン兄。先に逃げてくれ。この手榴弾で入り口を崩落させる」
「分かった」クンがよろよろと背を向け奥へと歩を向けた。
 装甲車は1台ではなかった。ガンガンと撃ってくる。ムボンの体をかすめて弾光が走る。ムボンも急ぎ後退る。70m離れた時、入り口目がけて手榴弾2個を投げた。爆風がムボンを襲ったが、機関銃弾とAK自動小銃弾がトンネル内をビュンビュンと飛ぶ。崩壊していない!
 ムボンが100mほど後退ると、防弾盾2枚がムボンの前に立った。数発の銃弾が、その盾に当たった。
「クン兄。逃げろ!」ムボンが後ろを振り返った。
シジュンよ! 私だ!」親父だった。
「親父!」ムボンは驚いた。
「このまま後退するぞ。私は地雷を置く」親父が後退しつつ、首からぶら下げた袋から対人地雷に信管をねじ込み、1個づつ床に置いて行く。
「クン兄、役立さん、先生は?」銃弾音が飛ぶ中、ムボンが訊いた。
「クンは肩を負傷している。皆を洞窟に行かせた」
親父が答えて、地雷を置く。
 トンネル内に敵兵士が入って来たのが、自動小銃音で分かった。
 ムボンがライフル銃の弾倉分を一気に撃つ。
シジュンよ! あと100m下がったら、敵は地雷を踏むはずだ。盾を背に背負え! 私は後ろから続く。トンネル内は縦列、人ひとりが列をつくるはずだ」
「親父! 了解した!」ムボンが盾を背にして走る。袋の地雷を空にした親父も続く。
 親父とムボンが300ⅿ後退した時、後ろで地雷が連続して爆発した。トンネル内が共鳴し、爆風が2人の背を襲う。トンネル内で地鳴りがした。
「シジュン! 急げ! 崩壊している!」
「親父! 武器庫をどうする?」走りながらムボンが訊いた。
「私たちが洞窟に戻ったら、十鳥さんが爆破することになっている」親父も走りながら答えた。また後ろで地雷の爆発音がし、トンネルの床が揺れたが、爆風は追って来なかった。

(続く)

*このブログ冒険小説はフィクションであるが、事実も織り込み描いているつもである。
*次回が(最終章)となる予定である。





 






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最終更新日  2022年04月26日 08時29分49秒
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