全力疾走。
「天才」が、天から才能を授けられた人、神様から愛された人、なんだとすれば、吉原選手は絶対「天才」じゃない、と思う。この選手は、神様から無理難題をてんこ盛り、試練を山ほど与えられて、「なにくそ負けてたまるもんか、見てろよこのヤロー!!」ってノリで、「売られた喧嘩は買うぜ状態」で、無理難題を解き明かし、試練をくぐり抜けてきた人なんだと思う。・・・ん? ってことは、裏を返せば「神様の期待に応えてる」ってわけで、そうするとやっぱり神様に愛されてる選手なのかしら。まぁ仮にそうだとしても、神様、吉原選手に試練を与えすぎですって。ああでもなあ、ことバレーに関しちゃ、「売られた喧嘩は買う」タイプのお人みたいだしなあ・・・。嫌な予感はしたんです。昨日のキューバ戦。いつもだったらキッチリ決まるはずのサイドギリギリのフェイントが見事にアウト。サーブもあんまり変化しなかったし、速攻にもあんまりキレがなかった。そして何より、国家斉唱の時に映った表情を見て、愕然としましたよ。もうこれ以上ないってくらい、疲れきった表情。いつものこの人は、黙っていてもフツフツと闘志が湧いてくるような顔をしているのに、なんだか昨日の試合前は無理やり闘志を沸き立たせようとしている顔に見えました。タイムアウトの時、いつもの試合と比べて声が少なかったのも、「若手を育てるため」ではなくて「疲れきっていたから」かもしれません。それでも何度か、チームを締める言葉を発していたけれど、でもやっぱり、いつものキャプテンとは違ってた。なんだか、W杯の最終戦・中国に敗れたあとの、疲れきった表情に似ているような気がした。これから、栄光のアテネの地に向かう人だと言うのに。おかしいなあ、やっぱり疲労がピークなのかなあ、私の考えすぎかなあ、と思っていたら・・・悲しいかな、案の定、でした。アスリートにはいろんな種類の人がいると思います。ある目標を設定したらそれを到達するまで、緻密に計画を立て、決して無理せず着実に道を進む人もいるでしょうし、目標を設定したら、ペース配分も何もなく、スタートからゴールまでひたすら全力疾走しようとする人もいるでしょう。で、吉原選手は明らかに後者だと思うんですよ。彼女は、よーいどん!の声がかかったらすぐに全力で走り始めて、途中で心臓がバクハツしそうになったり、脚が悲鳴をあげたりしても、心臓や脚がぶっ壊れるまで走るのをやめないタイプのように思えます。・・・・・・だから心配なんです。去年のモントルーで、発熱とひどい吐き気に襲われたのにもかかわらず、点滴しながらコートに立った吉原選手が、W杯で、利き手を骨折して、高熱に侵されながらもコートに立った吉原選手が、コートに立つどころか、ユニフォームも着れない(着せてもらえない?)状態。一体全体、どれだけ疲れが溜まってたんだ!!ご本人は、ベッドの上で点滴に繋がれ、唇をかみ締めていることでしょう。WGPの、最後を締めくくる試合、しかも韓国戦。ここにきて体調を崩した自分を、この人は決して許さないような気がします。許さないからどうするのか、って言ったら、熱がさがったらまたすぐ、自らに厳しいトレーニングを課すんでしょう。この人は、そういう選手なんだと思います。・・・・・・・ああもう・・・。「頑張るのは当たり前のこと」と言ったって、あなたの“頑張る”は常人の域を超えてるんだよ。そこが全然わかってなーいー!!お願いだから、2,3日はゆっくり休んでください。あなたが居なくても、あなたが作り上げたチームは宿敵に勝つことができました。がたっと崩れちゃう時もあったけど、自分たちで立て直すことができました。「吉原選手がいないと頼りないチーム」から「吉原選手が入るとまた一段と強くなるチーム」に、進化を遂げようとしています。あなたは、神様の試練にまたひとつ勝ったんだと思います。2,3日、休んでください。そのくらいは「負け」てもいいでしょう?休んで、「負け」て、元気になって、そしたらまた、全力疾走してください。あなたが燃える場所は、今じゃなくて、もうちょっと先なんですから。