ジョゼ・サラマーゴの訃報
サラマーゴの名前は、ノーベル賞の受賞を通じて知った。だから、そのとき受賞記念の出版で書店に平積みされた1冊を読んだきりだ。彼は、先週、18日、静かにこの世を去っていった。「あらゆる名前」は、大きな謎を抱え込んだ物語である。戸籍管理局の死者の倉庫の構造は、現代の社会システムの矛盾を表すような迷路として描き出される。ミステリーとして読むには、生死に関わる繊細な意識を要求されるし、主人公のあまりにも平凡な人生と非凡な事件との出会いは、明快な解答を望む読者には、苛立ちを与えるだろう。最初に読んだときは、物語の構造が面白いくらいにしか感じられなかったのだが、いま、訃報の後で手に取ると、この本に隠された迷路の奥行きが、広がってしまったことを感じずにいられない。彼の名前の記された、死者の倉庫に、(精神に軽いショックを受ける)危険を冒してでも足を踏み入れることが、どうやら私の人生の救いでもあるようだ。