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テーマ:介護・看護・喪失(5319)
カテゴリ:母のこと・介護
母の口腔内は、転院してからというもの、かなり綺麗になった。 ただ、痰が出るのと、経管栄養で唾液の分泌が少ないのとで、口臭とオサラバというわけではない。 加えて、母は口腔内ケアの際に歯ブラシやチューブを思い切り噛む上に、動く右手で力任せに叩くため、洗浄はなかなか大変だという。 今日は転院初日以来、全く会うことのなかった看護師のAさんがいて、痰の吸引をお願いしたついでにちょっと話し込んだ。 口腔内ケアをする看護師には2通りいて、「嫌がってるから、これぐらいでやめておこう」と中断するタイプと、徹底的にやるタイプがあるそうだ。 彼女は後者らしく、「そこまでやらなくても」と言われるほど洗浄するらしい。 「健康体でも、歯を磨かなかったら気持ち悪い。病気だったら尚更。 それに、二次感染が原因で、ならなくていい病気になって欲しくない」 患者のために、そんな頑としたこだわりを持つAさんは、 「だから、Nishiko母さんは、私の声が聞こえると警戒するのよね~」 と笑っていた。 抵抗には他の看護師さんもみんな慣れたそうなのだが、母は元々我慢強い人だったし、他人に何かしてもらうことには感謝する人だった。なのに、何でこんなに抵抗するんだろうか? それをAさんに問いかけてみた。 「叩くか噛むしか、大きく意思表示する方法がないんだもん。仕方ないわ。 元気な時は快活だったって話だし、だったら尚更、 思うように動かない体が歯痒くてしょうがないと思うよ」 そんな答えが返ってきた。 その後の痰の吸引中も、案の定チューブを噛んだり、Aさんを叩く母。 謝る私に、Aさんが言った。 「いいのよ。吸引は苦しいよ。私もこんなチューブ入れられたら、嫌やもん」 そして、吸引が終わると、チューブを噛んで強張った母の顎関節(耳の下)をマッサージしてくれた。 「お母さん、口の掃除の時は噛んだらあかんで。自分で綺麗にでけへんのやから」 Aさんが出て行ってから、以前から何度か言ってることを繰り返すと、突然、母の息遣いが変わった。 はっ、はっ、はっ・・・・・・ 顔を赤くして、短く息を吐き出す。 ドキッとした。 ・・・泣いてる? 涙こそ流れてなかったけど、人が泣く時の息遣い、そのままだった。 「そんなこと、分かってるよ。でも、仕方ないやんか。 自分で思うように体を動かされへんし、苦しいんよ!」 母がそう言いたくて泣いたような気がして、心がずっしりと重くなった。 「ほんまに泣いたとして、それも立派な感情表現の1つやろ? それができるようになったのは、ええことちゃうか?」 後で身内にそう言われたことが救いだったけど、やっぱりちと凹む・・・。 大脳は大丈夫で、思考回路は以前と変わりなく働いている。 あまり口うるさく言うのはやめよう。 一度言われれば分かっていて、それでも正されないことに関しては、きっと意思に反してコントロールが効かないんだろう。 帰り際、母の顔を覗き込んで「バイバイ」と何度か言うと、母の口から小さく「ファイ・・・」と聞こえた。最初の「バイ」が不完全ながら声になって出たようだ。 本来なら嬉しいはずなのに、今日は凹んだせいで喜び半減だった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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