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2007.04.07
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カテゴリ:母のこと・介護

アクセス解析
前日、母の入院しているH病院のナースステーションから連絡があった。
電話の主は主治医ではなく、会ったことも話したこともない副院長のFドクターである。
私と面会したいとのことで、内容は今後のことだという。それは、介護ベッドの廃止に関することと、今後の様々な検査について。
電話でちょっと話してみて、暗い気分になった。

2011年、全国に13万床ある介護療養ベッドは、政府の方針で全廃される
厚生労働省は2000年、国民に充分理解されないまま介護保険制度を作った。それに伴って、病院は介護病棟を新設し、要介護の患者を受け入れてきた。
ところが、長期入院患者を介護病棟に移すよう指示した厚生労働省が、今度は掌を返して介護病棟を潰すことにしたのだ。
病院は国の方針に逆らうわけにはいかず、介護中心のH病院も、徐々に介護病棟を医療病棟に転換していかざるを得ないという。(介護保険制度に関する詳細はこちらで)

ここで一番問題になるのが、現在、介護病棟に入っている患者である。

入院を許されるのは、毎日点滴を受けていたり、気管切開等で24時間監視状態にある患者、もしくは厚生労働省の定める難病患者。
主に介護を受けるだけの患者は、病院にいられなくなるのだ。

では、ベッドのなくなる要介護患者は何処に行けばいいのか。

厚生労働省は、介護ベッドの全廃を打ち出しただけで、放り出される患者の受け皿(公立の施設)を作ったわけではない。既存の介護施設(ケアハウスや老人ホーム等)のベッドの争奪戦になろうが、在宅介護で家族が悲鳴を上げようが、知ったこっちゃないのである。
十数万人の介護難民を作り出すプランを打ち出した非道な男は、異動なのか天下りなのか定かではないが、もう厚生労働省にはいないらしい。

母は、感染症などで点滴を受けることもあるが、基本的には医療の入院患者ではなく、介護の入院患者である。ということは、母もH病院を出なければならないということになる
せっかくいい病院に移れたのに、たった7ヶ月で、また引越し準備をしなければならないのか。

しかし、母の体には経管栄養カテーテルと尿管カテーテル、2つの管がついている。これがあると、ケアハウスのような一般的な介護施設は受け入れに難色を示す。
じゃあ、母は何処に行けばいい? 今の私には、在宅介護は無理だ。


暗澹たる気持ちになって、一晩中考え込んだ。

しかし、Fドクターは、今後の検査の話もあると言っていた。
ならば、すぐに出て行けということではないのか?


あれこれ考えていると、朝になった。
11時に面会の約束をしている。
あっという間に時間が来て、病院へ向かった。



Fドクターは、元財務大臣の塩爺に似た、とても気さくな人だった。
挨拶の後、ナースステーションの中で向かい合って座った。

「電話でもお話したけど、2011年に介護ベッドが廃止されるでしょ?
 ほんまに何を考えてるんや!?言うて、政治家を呼びつけて説教したい気分なんですわ」

ドクターがそう言うと、看護師達が「その時は私達も呼んで下さいよ~」と笑う。
彼女達の反応を見て、このドクターが職員に好かれているのが分かった。

介護ベッドが全廃される件で、ドクターは相当悩み、胃がやられて緊急入院したという。
それは、病院の行く先を思ってではなく、患者達のことを思ってのことだった。

「このまま続けて医療ベッドに入院できるのは、限られた人だけでしょ。
 でも、要介護度が軽度であれ重度であれ、そのご家族はそれぞれの事情があって
 患者さんをこの病院に預けてるわけです。
 みんな、ここでゆっくりさせてあげたいんですわ・・・」

目の前のホールに昼食のために集まった、車椅子の患者達を見ながらドクターはそう言った。

私の母の場合、病名は脳幹出血後遺症、高血圧、狭心症、胃潰瘍である。
これらは、厚生労働省が継続入院を許す病名リストにはない。だからといって、無理に点滴をするわけにもいかない。
感染症等で熱が出ている間は治療を受けているからいいが、平熱に戻るとダメ。それでも入院させていると、病院側に損害が出るような仕組みになるらしい。
どこまでもいやらしい、汚いやり方だ。


私はどうしたらいいのか。
すぐにでも、ベッド探しに奔走した方がいいのだろうか。


すると、近くで仕事をしている看護師に、ドクターが問いかけた。

「Nishiko母さんは、心電図装置の電極、着けさせてくれるかな?」
「はい、着けさせてくれますよ」

きょとんとする私。
母は不整脈を起こしているわけではない。

ドクターは続けた。

「嘘の病名を書くわけにはいかんけど、24時間、心電図チェックしてるという形やったら、
 このままの病名で入院してもらえるからね。それでいきましょ」


寝たきり患者を継続入院させるための、ドクターの苦肉の策。

いろんな病院で「患者様本位」という言葉を見かけるが、その大半が建前だけだ。
ところが、このH病院とドクターは、本当に患者と家族のことを考えてくれている。

何という有難い話だろうか。
私は深々と頭を下げて、何度もお礼を言った。

そして、今までは介護保険を利用して支払っていたものが、通常の医療保険に変更される。
その負担額がどうなるか、ケースワーカーをこの場に呼んでくれた。
まだはっきりとは言えないが、3ヶ月間は1万円ぐらい上がるかもしれないが、その後は今と同じような額か、少し安くなるかもしれないと言う。

以前のB病院での負担が苦しかったこと、ここに転院してきて楽になったことは、既にFドクターに話していた。
「大変やったんやなぁ・・・」と、いたく同情してくれていたドクターは、
「できるだけ安くなるように、いろいろ考えてあげて」
と、ケースワーカーに頼んでくれた。

こんなに血の通ったドクターに巡り会えたことと、いただいた厚意に、嬉しくて涙が出そうになった。


ここに転院して、母の口腔は本当に清潔になって、口臭が消えた。親切なスタッフのおかげで辱創ができることもなく、綺麗なゆったりとした部屋で日々を過ごしている。
嚥下(ごっくん)の訓練は、残念ながら誤飲の可能性が高いとのことで進んではいない。まだ会話ができるわけでもないし、起き上がれるわけでもない。
けど、亀の歩みよりも遅いとはいえ、母が快復しているのは、この病院のおかげだと私は思っている。

そして今度は、介護難民になるはずだった母を救ってくれた。

H病院に来て、本当に良かった。
そして、母と私をこの病院に導いてくれた森羅万象に、心から感謝したいと思う。





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Last updated  2007.04.09 00:44:08
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