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テーマ:昔の日本映画(74)
カテゴリ:日本映画(1951~60)
小津安二郎監督の『東京物語』などで助監督を勤めた高橋治の監督デビュー作品。高橋監督はこの後、1965年に松竹を退社して執筆活動に入り、1984年に「秘伝」で直木賞、1988年に柴田錬三郎賞、1996年に吉川英治文学賞を受賞している。
また本作は、後に『青春の殺人者』『十八歳、海へ』『瀬戸内少年野球団』の脚本を執筆する田村孟の脚本家としてのデビュー作でもある。 『彼女だけが知っている』 評価:☆☆☆
ミステリ映画として観ると、犯人造形がおざなりだったり、夏山の刑事としての人物描写も物足りなかったり、犯人逮捕のときの綾子の関与はまずかろうとか、あれこれ不満はないわけではない。 しかし、強姦されて傷つき、家族・婚約者との関係でさらに悩みを深める娘を中心と考えると、60分強という短い時間の中でテンポよくその心理的な葛藤を描き出していて、犯罪被害者の回復と自立を描いた社会派ものとして秀逸だと思う。 それにしても、笠智衆がサスペンス映画の刑事というのは、意表をついたキャスティングのように感じられるが、これは長年、小津監督のもとで笠を見てきた高橋監督が、確信犯的に、小津映画での笠の役どころである父親像を打ち破ろうとしたものだろう。 そして本作での笠智衆の演技は、相変わらずうまいとは言えないものの、娘を気遣う父親の立場と、職責を全うしようとする刑事の立場に苦悩する役柄に、笠の朴訥とした味わいがマッチしていて、高橋監督のもくろみはひとまず成功したと言えるだろう。 綾子の葛藤を表現するために斜めの構図を使用したり、陰影を強調した画作りなど、初監督作品とは思いがたい演出もよかったと思う。やはり巨匠の下では(知らずに)実力がつくということか。 犯人の遺留品のコンタクトレンズが犯人の絞り込みの決め手になるのだが、1960年当時、すでにコンタクトが一般的だったのはちょっと以外。まぁそれなりの値段はしたのだろうが。 中村八大によるジャズ風の音楽は悪くはなかったが、BGMの入れ方が過剰すぎたのは大きなマイナス。 またラストで、事件の被害者(=捜査協力者)が事件解決の警察の慰労会に出席してしまうのは、いくら何でもありえないだろう。警察官の家族だからといって、レイプ被害者なんだから。 その辺が減点要因で、☆は三つにした。 『彼女だけが知っている』 【製作年】1960年、日本 【製作】松竹(大船撮影所) 【監督】高橋治 【脚本】田村孟、高橋治 【撮影】川又昂 【音楽】中村八大 【出演】小山明子、笠智衆、渡辺文雄、水戸光子、三井弘次、松本克平 ほか お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.04.03 15:04:25
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