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テーマ:昔の日本映画(74)
カテゴリ:日本映画(1971~80)
清水一行の日本推理作家協会賞受賞作(1975年)の映画化。
同じ年に公開された『新幹線大爆破』(高倉健主演、東映)とは、新幹線を破壊しようとする犯人と警察との対決という根本が共通しているが、こちらの方が騒音公害を前面に出して、より社会派的な作りになっている。 本作の監督が、私の好きな増村保造なので観に行く。東京のラピュタ阿佐ヶ谷で開催していた「ミステリー劇場へようこそ。【第2幕】」にて鑑賞(2007/3/21)。 『動脈列島』 評価:☆☆ 原作は未読。 そもそも増村映画(の大半)は、パニックとか社会正義とかヒューマニズムとかには無縁であって(一言でいえば「女の情念」といえるか)、やはりサスペンスドラマは厳しいなというのが正直な印象。 もちろん、関根恵子や梶芽衣子の艶っぽい撮り方や、犯人の近藤正臣の熱く思い詰めた情念的な行動の描き方(近藤自身の熱演・好演も大きい)、また汚い話だがひかり号のトイレのグロいシーンなどは、増村監督ならではと思う。 また、新幹線のサブリミナル的な挿入の仕方も大変にうまいと思う(とくにラストの新幹線が次々と走る様子は印象的)。 しかし本来ならば、犯人と警察との行き詰まる攻防戦が中心となるべき展開のはずが、捜査官の田宮二郎の造形が天才的すぎて(一発で犯人の行動を予測してしまう等)興を大きく削いでしまっていて(原作も?)、またこういうドラマに不可欠な意表をつく展開もない。 犯人の行動も、途中までの新幹線に仕掛けた“罠”には「おっ」と思わせるものがあっただけに(車で併走して……というのは思わず感嘆した)、最後でどんなものを用意しているのかと思いきや、単に○○すだけなので、思わず拍子抜け。脅迫状に指紋を残し筆跡を残し、すぐに身元がばれること覚悟で企んだ“罠”にしては、あまりにも幼稚すぎないか?(原作も?)。 とはいえ、上にも書いたように近藤正臣は大熱演。 私の記憶にあるなかでは、これが一番良い演技ではないだろうか(指名手配されているのだから、もっと髪型を変えろよと思ったりはしたが)。 また映画館で観ると、新幹線のもたらす騒音・振動が(ラピュタ阿佐ヶ谷のように小さい劇場でも)腹の底から響いてくる感じがして、なるほど、これは正義感が強ければ強いほど無策な国鉄に何かしてやりたくなる気持ちは十分にわかる気がした。この感覚は、たぶん家でテレビ放映やビデオで観たのでは分からないと思う。 あと、“対決”ということでは、近藤が国鉄総裁の自宅へ押しかけて直に対話する場面。緊迫感が溢れていて、見応えがあった。山村聰もこういう役は非常に様になっている。もしかしたら、ここがクライマックスだったのかも知れない。全編とは言わないが、こういう感じで犯人vs警察を描けなかったのかな。 田宮二郎の演じる捜査官の自信満々な態度・考えやはり田宮二郎独特のものだろう。 たぶん様々な対策が進んだためか(または切り捨てのためか?)、最近は新幹線公害、騒音や振動が問題だと耳にすることは(少)なくなったが、公害なり環境破壊なりが起こる構造は、アスベスト問題などをみていても、今も昔も何ら変わることはないと強く感じる。 その意味では、映画としての出来はけっしてお薦めできるものではないが、公害問題を何とかしようとして狂気に走る若者の姿を強烈に描き出した作品として、一見の価値があるのではなかろうか。 【あらすじ】 時速200キロの高速で走る東海道新幹線によるすさまじい騒音と振動のため、沿線に住む老婆は異常をきたし、医師・秋山宏(近藤正臣)とその恋人である看護師・君原和子(関根恵子)が看護するなか息絶えた。秋山は和子に、少量のニトログリセリンを盗み出して欲しいと頼む。そして、突然、ヨーロッパ旅行に出かけると言って姿を消してしまった。 新幹線ひかりの詰まったトイレの中から、ニトログリセリンと脅迫状が発見された。入れられた袋が出てきた。国鉄に対して騒音対策のすみやかな実施要求と、受け入れられない場合は10日後に新幹線を転覆させるという。その翌日、脅迫状に記された通り、愛知県の豊田駅でこだま号が脱線させられた。 警察庁の国松長官(小沢栄太郎)は、秘蔵っ子の滝川保(田宮二郎)を捜査本部長に任命し、ほか警視庁と愛知県警からの6人が中心となって捜査を開始した。滝川は脅迫状の内容が、名古屋新幹線騒音公害訴訟団の要求と同じことから、訴訟団の根拠となった論文を書いた秋山に注目、指紋の一致から彼を犯人と断定する。 一方、東京に潜入していた秋山は、国鉄とマスコミに対して、改めて新幹線を止めると予告した。滝川は、公開捜査を要求するマスコミに対して、犯人の次の行動を未然に防げなければ公開すると約束するが、警察の検問をかいくぐった秋山に見事に新幹線を止められてしまう。警察は公開捜査に踏み切り、秋山を全国に指名手配にした。 秋山は医学界に失望した元看護婦でバーのホステス・落合芙美子(梶芽衣子)に匿われる。ある夜、国鉄総裁(山村聡)の自宅に赴き、直接新幹線対策を要求するが断られてしまう。秋山は、その対話を録音したテープをマスコミにリークした。 そして、予告した犯行の前日、秋山は実家の製材所からブルトーザーを盗み出した。そして当日がやってきた……。 『動脈列島』 【製作年】1975年、日本 【製作】東京映画 【配給】東宝 【監督】増村保造 【原作】清水一行 【脚本】白坂依志夫、増村保造 【撮影】原一民 【音楽】林光 【出演】近藤正臣、田宮二郎、関根恵子、梶芽衣子、山村聡、小沢栄太郎、井川比佐志、小池朝雄 ほか お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.06.08 15:44:42
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