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分太郎の映画日記

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2007.05.30
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 宮沢りえ主演『父と暮らせば』、原田知世主演『紙屋悦子の青春』などで知られる黒木和雄監督の出世?作。ドキュメンタリーではあるが、この作品によって、映画業界に黒き監督の名前が知られるようになる。
 東京国立近代美術館フィルムセンターで開催中の特集上映「追悼特集 映画監督 今村昌平と黒木和雄」にて鑑賞。併映は、本作の続編『ルポルタージュ・炎』と『東芝の電気車輌』。

 『海壁』 評価:☆☆☆☆

 高度経済成長時代を迎える直前、関東地方一円の増大する電力消費をまかなうために建設された、東京電力の横須賀火力発電所の、建設に関する全行程の記録映画の第一弾。
 “火力”発電所なのだが、第一弾の本作品では、基本的には建設の基礎となる、“水との戦い”が収録されている。

 冒頭は海底のシーンから始まり、発電所建設に至る経緯と当時の横須賀の横顔(アメリカ軍兵士が街を歩いているシーンとか)が簡潔に語られた後、建設予定の地となる後背の山の切り崩し(爆弾に埋め込み作業と、防空壕の跡が爆破作業とともに崩壊するシーンが印象的だった)から、はじめはその土砂を使っての埋め立て、次いで運ばれてきた土砂による埋め立て作業の様子が、3分の1くらいの時間を費やして記録されている。

 圧巻は、その後の、埋め立て地(の内湾側)を襲う“波”との戦いだ。

 波による浸食を避けるために、旧日本軍が残した防波堤を利用し、捨て石を入れて海底をならし、ケーソン(コンクリート製・鋼製の超大型の箱)を多数つなげて設置し、外海面には波浪の効果を弱めるためのテトラポットを使って、護岸工事を完成させる。
 完成直前には、超大型台風の襲来があり、その“対決”シーンは、並の劇映画ではとうてい及ばないほどの緊張感がある。
 そして、護岸工事の終了をもって、本作品は終わる(なので、一見すると、発電所の建設記録とはとうてい思えなかったりする)。

 とくに捨て石をならす作業では、中高年(と思われる)の潜水夫たちが1日かかって1人2~3畳分しか進まない様子など、どちらかというと最下部の作業に携わる人たちの姿をきっちりと捉えている点も、本作品の特徴だと思う。
 海から上がってきた潜水夫が、ゴテゴテの潜水キャップを外して、最初にするのがタバコを吸うシーンがとくに印象的であった。

 ドキュメンタリーとは言いながら、水中撮影や空撮、線画までを使って語られる映像は迫力に満ちており、映画のタイトルもM・デュラスの小説「太平洋の防波堤」から借用していたり(らしいです)、コメンタリーを詩人・飯島耕一に書かせる(ナレーションは長門裕之)など、黒木監督の作家性が前面に出されており、それが非常に上手く的確に建設の足音を伝えてくる(この点で、後に作られた『わが愛北海道』とは対照的。こちらは、恋愛要素を絡めるという作家性と、北海道の紹介とが、折り合わずに破綻してしまっている)。
 単なる記録映画としてではなく、“物語”映画としても十分に楽しめる作品だ。

 岩波映画製作の企業ドキュメンタリーなので当然劇場公開された訳ではない(らしい)が、この作品の出来の良さが、じわじわと映画業界に黒木監督の名前を浸透させていったようだ。
 撮影の経緯は、それまで助監督だった黒木氏が「桑野茂の推薦」で撮ることになったというが、実態は、桑野氏が3年も横須賀に付きっきりで取りかかれるのを避け、代わりに引き受けた、というのが実際らしい。

 佐藤忠男著『黒木和雄とその時代』の巻末に収録されたシンポジウムでの黒木監督の発言によれば、日本で最初にシネマスコープ(いわゆる縦横比1:2.3前後の、横に長いワイド画面)で撮影したのは黒木監督のこの作品だという。
 一般には、1957年に公開された『鳳城(おおとりじょう)の花嫁』が日本最初のシネマスコープ(東映スコープ)とされているが、この『海壁』は完成・公開(1959年)までに3年かかっており、『鳳城の花嫁』よりも1年早く撮影が開始されているわけで、日本最初という栄冠は、この『海壁』に与えるべきではないかとも思う。(元々劇場公開される映画ではないことが災いしている、とも言えるが)

 音楽は、20世紀の日本を代表する作曲家、伊福部昭の門下であった池野成、小杉太一郎、原田甫、松村禎三、三木稔らが担当している。これがなかなか緊迫感あふれるもので、映画の展開にぴったりであった。

 余談だが、『プロジェクトX』も本作品を参考にしていれば、もう少しまともな番組になったのではないかと思うのだが……。

 発電所の建設、しかも用地準備段階のドキュメンタリーという題材のために、門前払いする人も多いだろうが、一見の価値のある秀作だと思う。

『海壁』

【製作年】1959年、日本
【企画】東京電力
【製作】岩波映画
【監督】黒木和雄
【脚本】桑野茂、黒木和雄
【コメンタリー】飯島耕一
【撮影】加藤和三
【音楽】池野成、小杉太一郎、原田甫、松村禎三、三木稔
【ナレーション】長門裕之


自著
『私の戦争』

佐藤忠男著
『黒木和雄とその時代』





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最終更新日  2007.06.07 16:45:21
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