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カテゴリ:遡行エッセィ
高校三年生の秋、初めて失恋を経験した。
そんな恋には疎い俺にも、当時夢があった。それは 『映画監督』になる事である。 心にジブジブと治りの遅い"傷"を抱えながら、俺は 上京し、新天地へと足を踏み出したのである(この話はいつか) *********** 数年後、夢を摩天楼へ置き去り、僅かなカケラをしまい帰郷する。 夢を捨てきれぬまま、俺はなんとか職を見つけたが、 地に足が着いてないような空虚な生活が続いた。 そんな折、勤務中に腹痛。あまりの痛さに勤務終了後、某総合病院 へと車を走らせた。 痛みを堪えるのに、油汗が額に溜まる。 診察後、あれまあれまと病室のベッドの上に寝かせられた。 先生曰く「腸にばい菌(風邪菌)が入ったんだろう」だそうだ。精密 検査も兼ねて、安静を余儀なくされ、数日の入院となった。 痛み止めのおかげで痛みは治まり、暇な時間をベッドの上で持て余 していた、夜半のあたり。 「あれぇ、ぶー君!?」 なんか聞き覚えのある声だ。六人部屋の病室の入り口から、姿を現し た白衣の天使… 天 し…… !? え…な なぁにぃぃぃぃ!! なんとそこに立っていたのは、俺に初めて失恋の味を教えてくれちゃ った彼女であったのだ。 「久しぶりだね♪戻ってたんだぁ」 「お…おぅ。まぁね」 ブレザー姿から白衣に姿を替えた彼女。 か…か…… かわいぃぃぃい… なんて事ない雑談のさなかも、俺の思考はどんどんいらぬ方向へと導か れる。白衣の天使(看護士)と患者の恋。夜中に訪れるムフフ(すんません…) 突然彼女が「ぶー」 「なに♪」(まだ妄想中…) 「出る…?」 「???!」何処へ!?ムフフフフフフ。阿呆です。 「おしっこ」 「…………」 妄想中の俺の頭ん中とブラザーちゃん♪は瞬間移動の如く、リアルワールド に引き戻されたのだ。 「あとね、細菌調べる為に"ウ○チ"も採るからね♪」 「……………………はい」 その後、尿を採ったカップを渡した相手は彼女。 ウ○チを採って渡した相手も…よりによってまたもや彼女である。 現実は甘い恋話やドラマのような恋話などそうそうあるものではない。 この数日間の入院生活の後には、天使と妄想悪魔との禁断の恋など発展 する訳もなく、甘酸っぱい恋のお相手に対する気恥ずかしさと、俺のあら ぬ妄想に対する自己嫌悪しか残りはしなかった。 白衣の天使はやはりこの"古傷"だけは治しはしてくれなかったようでる。 それどころか、その傷痕の上から新しい傷を作ってくれたようだ。 悪魔の顔をもった天使ミカエル。 まぁ彼女は自分の職務をまっとうしただけで、すべて俺の勝手な想いから 跳ね返っただけであるから、彼女に罪はない。 今、あの白衣の天使は何処にいるんだろう。 逢ってみたい気もする。いやいや…この甘い?恋の味はこのままそっと 胸にしまって置こう。 (了) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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