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カテゴリ:育児
うちのアパルトマンの窓辺に立って視線を下に落とすと、向かいのテレコムショップの中にいるお兄さんと目があってしまうが、この場合、いちいち挨拶するのはお互い鬱陶しいので、双方、気がつかないふりを決め込んでいる。ごちゃごちゃした下町で、お互い、自分たちの精神的領域を守るための、気遣いであった。
ところが。 狸さん(うちの赤子1歳5ヶ月)がその一線を超えてしまったのである。 狸さんは、窓から外を覗くのが好きで、いつもは、目の前の建物の軒にとまる鳩や、通りを歩く犬、通園する子ども達などを指さして「ハト!」「ワンワン!」「ベベ!」などと指摘に忙しかった。 しかし、今日は、ふと気がつくと少し様子が違った。狸さんは、窓辺に立って、「オーヴォァー、オーヴォァー(Au revoirさよなら)」と盛んに手を振ってはキャハキャハ笑っている。 ついに、向かいのテレコムショップのお兄さん(店の中に座っている)と手を振り合うことを覚えてしまったのである。テレコムショップのお兄さんからは、狸さんの手と顔だけが見えるものと推測される。 挑発したのはもちろん狸さんだと思う。お兄さんのほうにとっては、店番もあるのに、延々と向かいの建物の2階の窓にいる赤ん坊に向かって手を振っていなければならなくなるのは、決して都合の良い話ではないからだ。 お兄さんの反応を期待しながら満面の笑みで延々と手を振り続け、合間合間には腕をさしのべながら「リロ!リロリロリロ!リロ?!」と演説調に呼びかける狸さん。お兄さんは無視するにしのびないらしく、時々、知らんぷりをしてみたり、お客と話をしたりするものの、また狸さんのほうをチラと見る。そうすると狸さんがまだ必死に手を振ったり、さしのべたりしているので、お兄さんもにっこりして手を振り返す…。そうすると狸さんは「オーヴォアー、オーヴォアー」と手を振ってキャッキャと喜び…。 私は一歩下がって、いつまでも繰り返されるこのやりとりを垣間見ていたのだが、そろそろ狸さんを捕まえてお風呂に入れなければなならないので、仕方なく、窓辺に貼り付いて手を振り続ける狸さんをベリッと剥がし、抱っこした。 この時、ついに、私もお兄さんとばっちり目が遭い、お互い、窓越し・通り越し・1階分の空間越しに会釈をすることになってしまった。この会釈で、今までの「お互い見えないフリ」がぶちこわしになってしまったのだ。 まあ、狸さんが家にいながらにして、向かいのテレコムショップのお兄さんが子守りをしてくれると考えればよいかもしれないが、それにしても、これから毎日狸さんが、お兄さんに手を振らせようと窓辺で延々と騒ぎ立てるのは目に見えており、どこまでお兄さんが相手してくれるかが気になるところである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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