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2005年11月15日
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カテゴリ:日常生活
エマニュエル・トッド氏インタビューの話の続き


トッド氏は「今回の暴動の参加者である、移民の2世3世の若者たちは、フランス共和国的な価値観(とくに自由・平等)を内化しており、そしてその価値観がフランス社会で機能してないと感じているからこそ、蜂起したのである」として、この意味で、移民の子たちはフランス社会にとって異分子なのではないのだと主張。

氏によると、今回の現象(移民の子たちの暴動)は、市民革命を繰り返してきたフランス社会の典型であり伝統でもあり、まあとにかく非常にフランス的な出来事なのだそうだ。だから、暴徒たちをフランス社会の異分子扱いするサルコジの挑発的な言葉についてはトッド氏は評価していない。

トッド氏は、フランスの移民の同化度の一例として、異民族間結婚の率をあげ、イギリスのパキスタン人やドイツのトルコ人に比べて、フランスのアラブ・アフリカ移民のほうが異民族間結婚が多いことを指摘。

政府の対応(非常事態宣言、夜間外出禁止令など)に対しては、トッド氏は適切な対応だし、節度も守られていたと見ている。
「1968年5月革命に参加した若者たちは『CRS(共和国保安機動隊=治安部隊)はSS(ナチ親衛隊)だ!』と叫んだものだが、実際には治安部隊側は非常に慎重に対処していた。それについて当時の左派が『警察は暴徒を撃たないのは、ブルジョワ層が自分たちの子どもを殺したがらないからだ』などと言ったほどだ(ご存じと思うが、5月革命の学生運動の参加者にはブルジョワの子弟が多かった。)。今回の暴動では、暴徒はブルジョワ層の子どもたちではなく、移民の子ども達であったが、共和国は、移民の子ども達についても撃ったりはしなかった。」

つまり、トッド氏の言いたいことは「国のほうだって移民の子らを異分子としては扱っていない。ブルジョワのお子様たちと同様に大事に扱っているのだ!」ということなのだろう。

「暴徒のせいで最初の死人が出た時点で、急激に暴力行為が減った。今回の件でフランスを嘲笑する海外のメディアはこの点について考えてくれたっていいんじゃないか。」

ここでは、トッド氏は「暴徒である移民の子らも異分子として共和国そのものを否定しながら暴れているのではなく、フランス共和国市民としての共感やモラルがある市民なのだ。彼らがフランス人であるからこそ、死人が出たら、暴力行為を控えるようになったのだ。」といいたいのだろう。

氏は「移民の子たちはフランス社会の異分子ではない。移民の子らもフランス人として行動しているし、共和国も彼らをフランス人として扱ってるのだ」と再三強調しつつ、「経済についてはこれからグローバライゼーションのせいで雇用や給料に圧力がかかって厳しくなると思うが、政治的にはこれから良くなるだろう。全国に広がった今回の暴動をきっかけに右派政権も政策について良く考えるだろう」としている。


トッド氏自身も楽観論といってるが、私も彼の言っていることは楽観論だと思う。

更に、トッド氏の論の後ろには、「なにはともあれ、フランスという国は素晴らしい。絶対フランスが間違うことはないのだ」という、絶対自分の非を認めないフランス的な傲慢さがある。

 トッド氏が移民系若者たちの暴動も、政府の対処をも肯定しているのは、どちらも、はっきりいってそれが「フランス的だから」という理由で、ちょっとゴーインだ…。
 フランス的であれば、車を焼き払い、公共交通機関を襲い、幼稚園や保育園を焼いていいものなのか?死人が一人出たら各地の暴力行為の数がめっきり減ったとトッドさんは言うけれども、死人が出た頃は、暴動の始まりから相当日数がたっていて、事態の深刻さに政府が厳しい対応を始めた頃だったので、「死人が出たので全国の郊外の移民系若者たちが反省して暴動を自粛しはじめた」と考えるのはちょっと無理がないか? 

確かにフランス革命だってもし鎮圧されていれば今ごろ単なる暴動扱いだったかもしれないけれども、今回の郊外の若者たちは何らかの理念を掲げて何か具体的な革命を要求しているわけではなった。2人の移民系若者の感電死をきっかけに、普段からかかえている不満や怒りの表現として暴れていたのではなかったか? (サルコジ辞任しろ!という声もあったけれども、それは後付で取って付けたようなものであって、暴徒たちはサルコジ辞任を求めて火炎瓶を投げているわけではない。)

確かにこの「普段からかかえている不満や怒り」は、トッド氏が言うように、「フランス社会からのけ者にされることに対する不満や怒り」ではあり、そういうふうに解釈すれば、「彼らが全国各地で暴れたこと自体にメッセージ性がある」ということになる。

百歩譲ってこれを「メッセージ」として解釈するなら、彼らが「フランス社会からのけものにされている」状況に触れるべきだと思うのだが(たとえば統計学者なら統計を出しながら、とか)、トッド氏は、逆に、「彼らはそれほどフランス社会から隔絶されてません。海外のメディアはフランスを移民政策に失敗したアホ国家扱いしないでね! 彼らがフランス人としてフランス社会に同化している度合いが高いからこそ今回の暴動が起こったのですよー」と詭弁を弄して無理矢理ポジティブな話に持って行っているような気がしないでもない。

とくに「移民の第二世代第三世代はどちらかといえば庶民階級には良く同化してるほうだと思うし、中流階級やエリート階級にのしあがった者だっている」と言ってるあたり、「んー、やっぱりトッドさんも移民のことは統計からしか見えてないエリートさんなのでは?」と私は生意気に思ったりするのであった。

 まず、庶民階級あたりにいる移民系は、非ヨーロッパ系移民に限れば、庶民階級(労働者階級)に「同化」しているというよりは単に物質的な生活レベルが同じくらいになっているというだけの話ではないか。庶民階級(労働者階級)は、移民やその子孫の存在の影響を一番受けやすい。低賃金で働く移民が流入したために職(工場労働など)はどんどん奪われてしまうし地元の低所得者住宅も満員になる。彼らの子どもが増えるため、地元の公立保育園や公立校(幼稚園も含め)もやはり満員になる。だから、庶民階級には非ヨーロッパ系移民が嫌いな人がダントツに多い。アラブ人の多い地域で極右政党の支持率も高いのもそのせいである。

 移民出身でも、エリート階級にまでのしあがる人はいるにはいる。サルコジだって移民第二世代だ。ただしサルコジの場合は移民第二世代といっても、ヨーロッパ系だ。それに、お母さんが弁護士だったはずで、それなりの家庭出身だったのではないか? 失業率が高く貧乏なアラブ人とアフリカ人ばっかりの郊外の低所得者住宅に生まれ育って、自分一代でエリート階級にまでのし上がるのは、「お父さんが無職でお母さんがパートの経済的にしい家庭に生まれ、高校まで田舎の公立校に通ってて塾にも行かず東大現役合格し、エリート就職した人」ぐらいの率だ。学歴社会フランスにおいてはフランス式スーパー学歴さあれば本当にサクセスストーリーは可能なのだけども、ただ、そのスーパー学歴をえ身につけるのがやっぱり大変なのだ。

 移民第二世代第三世代は、「フランス人」なので、ル・ペンがいくら「暴徒はフランス国籍を剥奪して追い出せ!」と息巻いたところで、追い出すことはできない。たとえ国民投票かなにかで法律をかえて追い出すことにしても、フランスの国際的地位を考えれば無理な選択だろう。(ル・ペンの場合、いろいろ「ああしろこうしろ」と大衆の歓心を買うことを言うけれども、フランスの国際的立場というのを全く考えていない。確かにフランスは自給自足しようと思えばできないこともない農業国だろうが、鎖国するわけにもいかない。「古き良き時代」とはフランスを取り巻く国際情勢も変わってしまっているので、「古き良き時代のフランス」に戻るためにはタイムワープする以外方法はないだろう。)

 追い出すことは不可能なのだから、政府は暴動を鎮圧するだけでなく、暴徒の層を救済するために、何らかの社会的対策もとるつもりなようだが、容易なことではないだろう。そもそも、同じフランス国内でも、暴動の起きていない地区では、暴動の話が外国での出来事のような気がするほどだ。それほど彼らはゲットー化してしまっているのだ。

そして、今回、政府がすぐに成果をあげられず、もう一回何かこの類のことが起こったりすれば、次の選挙では極右台頭だ。そして私たち在仏日本人だってとばっちりを被るのだ…。在仏日本人の掲示板OVNIを見ると、社会党ジョスパンが首相でなくなってサルコジが内相になっただけで、日本人の滞在身分や運転免許書き換え、外国人学生に出る手当の金額(フランス政府はなんと外国人学生にまで住宅手当を出している)にもかなり影響が出ている模様だ。これがル・ペンが大統領になったらものすごいことになるだろう。

もちろん、私も、今回のようなカタストロフィーに際し、悲観論のほうが簡単なのはわかっているのだけれども、しかしトッド氏の楽観論はあまりに無理があるように思えてならないし、フランスの非ヨーロッパ系一移民の身としても、、とても楽観してはいられないのであった。






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最終更新日  2005年11月15日 09時53分56秒
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