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カテゴリ:時事
今回の暴動に際し、思想家アラン・バディウ氏が、11月15日のル・モンド紙で、(学問の話ではなく)個人的な体験を語っている。
ちなみにバディウ氏はENS(高等師範学校、通称ノルマル)哲学科名誉教授。彼の思想や業績については、表象文化論出身のくせに不勉強な私にはよくわからないので私にきかないでいただきたい(ご興味ある方は検索してね)。モロッコ生まれけれどもモロッコ人ではなくフランス人の模様(間違っていたらご指摘願いたい)。 バディウ氏には16歳の養子がいる(仮名ジェラールとする)。ジェラール君は黒人である。 バディウ氏とジェラール君が住むのは、今回の暴動の部隊となっているような「治安の悪い貧しい郊外」ではなくパリ市内であるが、それでもジェラールは常に警察のコントロール(職務質問や身分証の確認、所持品・身体検査など)に遭っている。 2004年3月31日から今日までの1年半だけで、ジェラールは、路上で数え切れないほどのコントロールにあい、6回も「逮捕」されている。逮捕というのは、つまり、手錠をかけられて警察署に連れて行かれ、侮辱されたりベンチにつながれたりして、何時間も、時には1~2日も拘留された、ということである。ジェラールは何もしていなかったのに、である。 「迫害体験の最悪な部分は往々にして詳細の部分。だからちょっと細にわたるが…」と断りつつ、最近の逮捕についてバディウ氏は語る。 午後四時半頃、ジェラール君は友だちのケマル(トルコ人家庭の子)と一緒に女子校の前にいた。ジェラール君がナンパをしている間、クレープ屋などでバイトして小銭を持っているケマル君は、女子校の隣の高校の生徒から自転車を20ユーロで買っていた。 しかしその後、3人のもっと年齢の低い子ども達(白人の)が来て、「この自転車はボクのだ。1時間半前に、よそのお兄さんに貸してって言われて貸したら返してくれなかったんだ」と言う。要するに、ケマルは「借り物」を売りつけられてしまったわけだ。ジェラールは「返すしかないだろ」と言い、ケマルも返すことを決心。3人の子たちは自転車を持ってその場を去ろうとした。 その時、きーっとブレーキ音とともにパトカー到着。パトカーから出てきた2人の警官がジェラールとケマルに飛びかかって、地面にねじ伏せて手錠をかけ、立たせて壁に押しつけた。「このカマ野郎!馬鹿野郎!」 ジェラールとケマルは「自分たちが一体何をしたというのか」ときいた。警官たちは「分かってるだろう。あっちを向いて、お前らが誰か、お前らが何をしたか、みんなによーく見てもらえ!」と二人を通りのほう へ向けた。なんと30分もそうしていたそうな。(バディウ氏は「中世の晒し台」の再現だ、といっている。) そして、「お前らだけになったらたっぷりお見舞いしてやる」「犬は好きか?」「署にはお前らをかばってくれるヤツは誰もいないんだからな」などと脅しの言葉。 3人の子どもたちは「彼らは何もしてないよ。僕たち、自転車は返して貰ったよ。」といったが、警察はジェラール、ケマル、3人の子どもたちと自転車を警察署に連行。警察署ではジェラールとケマルと3人の子たちはバラバラにされた。3人の子どもたちは先に返された。 ジェラールとケマルは、ベンチに手錠でつながれ、その前を警官が通るたびに向こうずねを蹴られた。ジェラールは「デブ豚」「垢野郎」などと言われた。二人はやっと拘留の理由をしらされた。2週間前に起こった集団暴行事件の疑いをかけられているのだ。(つまり自転車は全く関係なかったわけだ。) その時すでに夜10時。バディウ氏は家で息子を帰りを待っていた 2時間半後、電話がなり、「息子さんが集団暴行参加した可能性で拘留されているのですが」と警察から連絡。バディウ氏は「この“可能性”という言い方がまたいいよね」と皮肉る。警官全員がジェラールを犯罪者確定扱いしていたわけではなく、通りがかりにジェラールに「それにしても君はどんな事件にも関わりなさそうだけどねー。なんでまだここにいるの?」と言った警官も一人いたそうだが。 どこからこんなことになったのか、というと、ジェラールとケマルが門前にたむろっていた女子校の生徒監督が、ここのところ話題になっている暴動に参加した若者と勘違いして二人のことを通報したからだったようである。 別の逮捕の時には、警察がジェラールの学校に、全校の黒人生徒全員の写真と書類を全部送るように、と依頼したこともある。バディウ氏は警部のデスクにその書類があるのを見たので、学校側も警察の言う通り黒人学生の書類を提出したようだ。 バディウ氏に警察が「息子さんを引き取りにきてくれ」と連絡したのは夜10時をはるかにまわったころだった。ジェラールは何もしてなかったのに。警察側は謝った。しかし、バディウ氏は「謝られたって、甘んじて許せるもんか」と怒りを隠さない。 氏は「これが(ジェラールのように比較的恵まれた立場にある若者ではなく)“郊外”の若者だったら、謝罪すらしてもらえないのだろう。」と言う。 「彼らが日常生活でこうした汚辱を受け続けていれば、これが荒廃をもたらさないはずがなく、暴動も無理もないこと。暴動が起こったのは(この社会の)自業自得。治安と称して金持ちばかり守り、労働者系や外国人系の子ども達に犬を放つような国家は全くもって軽蔑すべきものだ。」 私はフランスに住むようになってもう○年になる。「この不当な扱いはもしかしたら人種差別ではなかろうか? それ以外に理由が考えられない」という嫌な思いが頭をよぎった瞬間というのは何度もあるけれども、まだ警察のコントロールに遭ったことは一度もない。数え切れないほどコントロールに遭ってたった1年半で6回も何もしてないのに拘留されてしまったジェラール君との格差にびっくりだ。 この記事への購読者の反応から、警官によるコントロールの経験の有無を語っているものだけ抜粋。 Anonyme(匿名)さん「僕は警察のコントロールに遭ったことがない」(この人の人種は記事からは判別不明。年齢は最低でも20代半ばか?) jさん「僕も青少年。白人だけど、僕も何もしてないのに同じような目に遭ったことがある。ル・モンドに証言が一つ載ってるけど、その裏でどれほどの数の同じような出来事が起こっていることか。郊外の青少年にはお父さんがノルマルの教授だなんていう恵まれた人はいないからなー。」 Ireneさん「うちの子はちょっと褐色だけどそれほどでもないの。で、うちの子の友だちはハイチの子(もっと色が黒いという意味らしい)。二人とも何十回も同じ経験をしているわ。いつも、うちの子は止められないのに、お友達のほうがコントロールされるのよ。メトロのシャトレ駅に行けばいつも警官がコントロールやってるから分かるわよ。」 Anneさん 「私はパリで1974年から1979年の間学生やってたんだけど、たった2回しか身分証明書見せろって言われなかったわよ。2回ともマルチニック出身(黒人)の友人と一緒だった時だわ。彼だってフランス人なのにね!」 Jeanさん 「私の友人のお嬢さん(白人)と結婚した、高学歴で銀行で良いポストについてる黒人を食事に招いたことがあるのだけれども、彼が自分もそういう経験があると言ってた。とくに新車を買ってから大変らしい。Golf(スポーツカーですか?)に乗ってる若い黒人ってことで…」(←麻薬ディーラーと間違えられてしまう、ということだと) Gerard B.さん 「僕は白人で、コントロールされたことはない。アラブ人の友だちがパリに来た時に一緒に出歩いていたら24時間もたたないうちに彼がコントロールに遭った。それで僕もはじめて、赤の他人である警官に「お前」呼ばわりされることが現実にあるんだなと知った。」 un jeune de droite...さん 「僕は土着フランス人なのでコントロールに遭ったことはない」 他の意見には、バディウ氏に批判的な意見も結構多かった。「バディウ氏の話は捏造」「バディウ氏は急進派の左翼活動家だしねー」「暴動が起こったのは社会の自業自得ざまー見ろだなんて不謹慎」「たしかにアラブ人と黒人のほうがコントロールされやすいが、それには理由がある」「20ユーロで自転車が買えると普通本気で思うか?息子を高校の門の外でうろうろさせとくなんて、バディウ氏の教育が悪いのでは?」等々。 ただし、ここまで書いて、「購読者の意見」欄の意見書き込みフォームをチェックしてみたところ、名前を変えて何度も投稿するのが可能であることが判明。 だから「購読者の意見」欄に書いてある体験談がどこまであてになるかはなんともいえない。 (せっかく体験談を拾って概訳したのにがっくり…。) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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