カテゴリ:金銀花は夜に咲く(完結)
「お前達は、私と”絆”を結ぶ必要がある」 竹生(たけお)が言った。 「鵲(かささぎ)と共に、真の佐原の当主を護る者となる為に」 鳥船(とりふね)はその意味を知っていた。それは竹生に血を捧げる事を意味していた。己の命の一部を。”絆”を結んだ者を、竹生は何処に居ても感知し、かの者には竹生の声が届くようになると。それは竹生の支配を受け入れる事でもあった。 「拒むならそれでも良い」 鳥船が尋ねた。 「拒んだらどうなるのでしょう」 竹生のあらゆる表情を隠した無表情の白い顔が鳥船を見た。 「別の者を選ぶ。鵲の部下として」 「何故、それほどまでに?」 「漣(さざなみ)の家の者らしくないな。当主様を護る者は当主様のお側にいる」 「当主様の居場所を知る為に、火急の際の為にですか?」 「それだけではない、お前達の為にもだ」 「私達の?」 「鵲と共にお前達も生き延びねばならぬ。それがひいては佐原の為になる」 高望(たかもち)が前に出た。高望は竹生の前に跪いた。 「私に”絆”をお与え下さい。我が父、火高が竹生様に命を捧げたのと同じように」 鳥船が慌てて言った。 「良く考えろ、高望」 高望はじろりと鳥船を見た。 「俺は”盾”だ。決意などとっくの昔に出来ている。俺が竹生様と”絆”を結ぶ事で、鵲様と当主様を護る助けになるのなら、拒む理由などない」 「高望、お前・・」 「鵲様は術を受けた身である事を苦しんでおられる。俺もその苦しみを、少しでも理解出来るやも知れぬ」 高望ははっとして竹生の顔を見上げた。今の言葉は竹生に対する侮蔑とも取れる。 「竹生様、ご無礼を」 竹生は微笑した。高望は思わず見惚れた。 「お前の心意気、我が甥への忠誠、良く解った」 竹生は高望の前に屈み込み、耳元でささやいた。 「お前の望み、かなえてやろう。お前を我が剣の庇護の下に」 囁いた薄赤い唇が耳から首へと滑り降りた。 高望は床の上に仰向けに横たわっていた。その顔は蒼白で目は硬く閉ざされていた。 「すぐに目覚める、心配するな」 マサトは椅子の上で胡坐をかき、ケーキを齧りながら言った。 「お前はどうする?こいつ一人でも目的は達せられる。お前は拒んでもいいぞ」 鳥船は高望を見下ろしていた。首筋の赤い傷を見ていた。”人でない”者の所業の痕を。鳥船は顔を上げた。 「竹生様、私は漣の家の者です。漣の家の者だからこそ、貴方にお尋ねしたのです」 その顔は晴れやかだった。 「物事を確かめずにはいられぬ性分でして。覚悟は出来ております」 マサトが笑った。 「石橋を叩いて渡るってやつか」 「はい。何が起きるかも、どうなるのかも、高望のお蔭で確かめる事が出来ました。これ以上、竹生様をお待たせするのも申し訳がない」 鳥船は竹生の前に跪いた。 「私も貴方の庇護の下へ。佐原と鵲様への忠誠、高望に勝るとも劣っているとは思いません」 竹生は言った。 「お前の思いは、むしろ鵲へ深いのであろう?」 「”絆”を結ぶ前からお見通しとは、面目ない」 「むしろ頼もしい。私に三峰がいたように、お前が鵲を支えよ」 「それこそが私の望み、身も心もすべて捧げてお仕え致します」 さらさらと白く長い髪が鳥船の頬に触れた。柔らかき闇を思わせる声が耳元でささやいた。 「少しだけ貰うぞ、お前の命を」 鳥船は目を閉じた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010/10/05 03:22:34 PM
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