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貴方の仮面を身に着けて

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2013/01/07
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ダイヤ

扉の前で朱雀が名乗ると、扉はすぐに開いた。

普段なら扉の左右に見張りの盾がいるはずだが、今は目立たぬように誰も立たせていなかった。特別病棟は各界の要人の入院も多い。待合室も豪華でそれなりの調度が整えられていた。明るいベージュ色のソファに、幸彦はぐったりと身を投げ出していた。傍らの安楽椅子に三峰がいた。朱雀の為に扉を開けた金谷は、そのまま入り口の側に立った。幸彦は片手を振って、朱雀に座るように促した。朱雀はソファの真向かいの椅子に腰を下ろした。

「事情は説明致しました。詩織も理解はしてくれたようです。今は詩織の気持ちも和らいでおります」
「そうかい」
幸彦の声に力はなかった。まだ痛みを堪えているかのような表情のままだった。
「詩織が、幸彦様に謝っておいてと欲しいと。先程は言い過ぎたと」
少しだけ幸彦の顔に笑みがよぎった。安堵したのか、体中の緊張が解けたのか、更にぐったりとソファに横たわる形となった。
「僕は、二人に幸せになって欲しいと思っている」
三峰が口を挟んだ。
「ですが、掟を破った鍬見を無罪放免にする事は、”盾”の士気に影響致します」
「わかってる」
幸彦は短く言った。そして大きくため息をついた。
「僕のせいだ、何もかも。村がああなってしまったのも、何もかも。今度は”盾”まで」
朱雀がとりなすように言った。
「時代の流れです。どうしても”外”の影響を受けずにはいられません。しかし鍬見の件はそれとは別の事です。あれはあれなりに、任務に忠実であろうとしたのです」
「そうだね」

三峰は金谷に声をかけた。
「幸彦様に温かいお茶を頼む。ついでに我らにも」
金谷は一礼して出て行った。室内は三人のみとなった。三峰が言った。
「”盾”の長である白神(しらかみ)の面子もつぶしてはなりませぬ。ですが、詩織は『火消し』に縁のある者、彼女の願いも無下には出来ぬはず」
「駆け引きは、僕は苦手だ」
三峰は微笑した。誰もが魅了される笑みが幸彦の顔を覗き込んだ。
「ええ、その類なら得意な者がおります」
美しき微笑は朱雀に向けられた。朱雀は片方の眉を上げた。
「幸彦様がお望みなら」
幸彦が言った。
「頼むよ」
「承知致しました」
朱雀は応じた。そして向けられた微笑に劣らぬ微笑を浮かべた。

(つづく)





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Last updated  2013/01/07 07:14:06 PM
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