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貴方の仮面を身に着けて

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2013/03/05
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ダイヤ

詩織が戻って来た。

手には水色のトランクを提げていた。朱雀はそのトランクに見覚えがあった。百合枝の物であった。かつて誤解とすれ違いから百合枝が朱雀の家を出た時に、手にしていた物であった。懐かしさが瞬間、朱雀の目を細めさせた。悲劇はあったが百合枝は戻って来た。
(求め合う魂を引き裂くなど、出来るものではない)
朱雀と百合枝がそうであったように、この二人も又。朱雀は鍬見に言った。
「これからはお前ひとりで彼女を守らねばならぬ。それでも二人で行くかね」
鍬見よりも先に詩織が答えた。
「かまいません。ただずっと生かされているだけよりも、私は鍬見さんと行きます」
朱雀は微笑した。朱雀は鍬見の手に車のキーを渡した。一緒に小さな紙切れを渡した。行き先の地図であった。
「今宵はそこで休むがいい。これからの事を二人で相談するといい」
朱雀は封筒を詩織に渡した。
「これは」
中には紙幣が詰まっていた。返そうとする詩織の手を朱雀は押しとどめた。
「当座の足しにしなさい。百合枝と私からの餞別だ」
「ごめんなさい。百合枝お姉さまには、良くしてしていただいたのに」
「私達はキミ達の幸せを祈っている」
「ありがとうございます」

朱雀は二人の車を見送った。テールランプが見えなくなると、朱雀は言った。
「さて、私相手に勝算はあるのかね」
どこからともなく現れた幾つもの影が朱雀を取り囲んだ。くぐもった笑いが幾つも沸き起こった。
「今頃、二人は亡骸になっておるわ」
「仲間がこの先に潜んでおったのだ」
朱雀は微笑した。
「それはありえんな」
殺気が朱雀の周囲に膨れ上がった。
「何をいう」
「強がりか」
「戯言よ」

頭上から声がした。
「そう、ありえぬ」

風が吹いた。

三日月の照らす天空には白き裾を翻す美しい姿があった。
「私が皆、斬り捨てた」
三峰であった。三峰を見上げ、朱雀は再び微笑した。次の瞬間、朱雀を囲んでいた影はことごとく地に伏していた。朱雀はいつの間にか愛刀を手にしていた。おそらく、どの影も自分が斬られた事すらも気づかずに絶命したであろう。影は音もなく黒い煙となって消え去った。三峰は優雅に地に降り立った。
「これで良いのだな」
「我らの未来の選択肢を増やす試みのひとつ」
「ただ、肉親の情で動いたわけではないと」
朱雀は三峰を見た。稀なる美貌のぬしは、兄の竹生と良く似た切れ長の目で朱雀を見ていた。
「”外”に出た時から、それが私の役目」
「辛いな」
「そう言うな、少なくとも二人を引き裂かずにすんだ」

「では」
朱雀は言った。
「私は自分の車で帰るが、お前はどうする、三峰」
「飛んで帰れというのか?」
「私の助手席はご婦人専用だ」
「お前らしいな」
朱雀はにやりとしてみせた
「だが、今日は例外を認めよう」

(つづく)





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Last updated  2013/03/06 12:51:19 AM
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