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Cirou

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Nov 2, 2004
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テーマ:小説日記(233)
カテゴリ:短編小説
 君は気付いているのだろうか。

 その小さな後頭部をジッと見つめている眼差しに。

 君は知っているのだろうか。

 君の事を考えて夜も眠れない男がいることに。


 静かな静かな朝。
 鳥のさえずりさえも届かない、薄暗い部屋に僕は居た。
 コンクリートの壁に囲まれ、湿気をたっぷり含んだ空気には微かにカビの臭いも混じっているようだ。
 僕はいささかうんざりした気持ちで、一晩中泣き続けている少女をチラリと見た。
 彼女は部屋の片隅で、両膝を抱え、肩を震わせて嗚咽を繰り返している。
 よくもまぁ、あれほど鳴き続けれるものだ。
 体中から水分が抜けてしまうのではないかと思うほど泣き続けている。
 彼女の名前は鈴原歩美。
 市内の女子高に通う、十七歳の少女だ。
 彼女は僕について一切知らないだろうが、僕は彼女について詳細を知っていた。
 家族は父子家庭で、三つ年上の姉と二つ年下の弟がいる。
 母親は彼女が八つの時に失踪した。
「お願い……帰して……」
 かすれた声に顔を上げると、歩美が泣き過ぎて腫れ上がった顔を僕の方に向けていた。
 その顔に、さすがの僕も憐憫を感じたが、かといって今の状況を変えれる程の案も思い付かなかった。
「まだ無理だ」
「じゃあいつになったら帰れるの!」
 ヒステリックに叫んだ歩美を僕は冷淡に見つめた。
「死にたくなければ黙っていろ」
 僕の言葉に歩美は目を見開いて、唇をかみ締めた。
 そうするしか他に彼女を黙らせる方法がなかった。
 これ以上、キャンキャン吠えられては、僕のほうが参ってしまいそうだ。
 ただでさえ、身に迫る危険に心臓がすくみ上がっているというのに、これ以上冷静でいる自信がなかった。
 僕たちは狭い地下室の対角線に座っていた。
 一定以上の距離に進入しないよう、お互い警戒しているようだった。
 一晩中眠っていないせいか、頭痛がひどい。
 僕はサバイバルナイフをしっかりと握り締めていた。
 彼女の怯えるような視線を感じていたが、僕はあえてそれを黙殺した。
 更に時間は経過し、気が付くと歩美は壁にもたれかかって目を閉じていた。寝ているのだろうか?
 それを見て僕はわずかに安堵し、同じように目を閉じた。
 少しだけ目を休めるつもりだったはずが、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
「高広、早く来て」
 僕は微かな話し声で目を覚まし、一気に覚醒した。
 跳ねる様に飛び起き、歩美に飛びかかった。
「誰に電話した!!」
 きゃーーっと切り裂かれるような悲鳴を上げる彼女から、力ずくで携帯電話をもぎ取り、床に叩き付けた。
 カシャッとおもちゃが壊れるように携帯電話が壊れ、部品が飛び散った。
 歩美は怯えきって、僕を悪魔でも見るような目で見ていた。
「馬鹿が……」
 僕はどうしようもない怒りに震えていた。
 元を辿ればこの女のせいでこんな事になったというのに。
 このまま歩美を放り出してしまおうか。
 いや、こうして彼女を隠していた事が奴に知れた今、僕の命も狙われる事になるだろう。
「どうして?……あなた、高広の友達なのに」
「だから!何度も言っているだろうが!」
 僕は大声で叫んだ。そうしないと恐怖でおかしくなってしまいそうだった。
「高広はもう普通の状態じゃないんだ!お前の彼氏を殺した!次に狙ってるのはお前自身なんだよ!!」
 血反吐を吐くように叫んだ僕を、それでも信じられないように歩美は見つめていた。
「嘘よ。彼は今、神奈川に研修に行ってるのよ。高広も……さっき電話したら、いつも通りだった。何で……あなたがそんな事を知っているの?もしも……あなたが言っている事が本当なら……どうして、私を助けようとしてくれるの?」
 彼女が疲れたように小さな声で言葉を続けた。
 僕はただ歩美の言葉をぼんやり聞いていた。
「高広の部屋で……君の彼氏の手首を見せられた。君と交換したとかいう、シルバーの指輪がついたままだった」
 歩美が息を飲むように喉を鳴らした。そして指輪をした左手をギュッと握り締めた。

 夕暮れに赤く染まった部屋で、高広は微笑んでいた。
 昔から大人しい奴だった。小さな虫にでさえ怯えるような奴だったのに。
 そんな高広を僕は放っておけず、まるで弟のように世話を焼いていた。
 彼が高校二年の頃、初めて僕に好きな女の子がいるのだと告げた。それからは毎日彼女の事を聞かされた。
 一つ年下の、まるで花のように可憐な少女なのだと、高広はまるで夢見る乙女のように頬を染めて語っていた。
 僕は数少ない恋愛経験から、彼の役に立つように色々とアドバイスした。
 そうして高広は歩美と知り合いになり、男友達として認めてもらえることができた。
 しかし、彼女にはすでに恋人がいた。
 それでも高広は、彼女に友達だと認められて側に居ることができるだけで幸せなのだと。だから自分が彼女に告白することはないと言っていた。
 まるで、姫を護る騎士のように、高広は歩美を見つめていた。
 その高広が妙なことを口走るようになったのは、つい数週間前だ。
「王子様とお姫様は、偽者だったんだ。だから……殺されてしまったんだって。やっぱり、嘘つきは殺されても仕方ないよね……」
 視点の定まらない目で、ボンヤリとそう呟いた高広に、僕は違和感を感じた。
 けれど兄貴分を気取っていたはずの僕は、そんな彼の異変を重要視しなかった。
 どうしてあの時、狂気の沼に踏み込もうとしていた高広を引き止めることができなかったのか。
 手首を持って微笑む高広を思い出し、僕は背筋を凍らせた。
 あれはもう、僕が知っている高広ではなかった。
 そして、まるで僕を人殺しのように見つめる彼女をジッと見つめ返した。
「君を助けたかったんじゃない。これ以上高広に人殺しをさせたくないだけだ……」
 僕は小刻みに震える手で、きつくナイフを握り締めた。

(後編に続く)

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リハビリ小説です(笑)
やっぱり書いてないとだめですね。
手が上手く動きません。
地味に書いていきましょう。





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Last updated  Nov 8, 2004 11:48:58 PM
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ぷりたん@ 超ラッキー!(* ̄ー ̄) 今まで風イ谷に金出してた俺って超バカスww…
鳥蘭丸@ うにゅぅぅぅぅ…… 可愛がってもらうだけ可愛がってもらって…
霧月詞音@ Re:◆ ヴァン・ヘルシング ◆(09/05) きゃ~、見たいんですよ!!!私。 あと…
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