テーマ:恋愛について(2607)
カテゴリ:sweet days
「ごめん、急な納品が入ったけ、1時間ばかし出てくる」
戦闘服を身に纏ったキミ。 急な納品で慌てていたのだろう。 テーブルには、ポツン、と財布が取り残されていた。 この中には、彼が決して見せてはくれないものが入っている。免許証だ。 私のそれを取り上げては、しかめっ面の写真を一人で眺めるくせに、 彼はどんなにお願いしても、ただの一度も自分のものを見せてはくれなかった。 免許証不携帯で運転させるのは、彼の肩書き云々関らず不味いよね 全く気付いていないだろう彼に、テーブルの上に財布を忘れていることを電話で知らせた。 勝手に見たりしたら怒るんだろうな… 頭では分かっているものの、見たい、という衝動は抑えられない。 本人が居ないとは言え、人様のものを勝手に覗き見るのはルール違反だ。でも、でも― ごめんね、勝手に見ちゃうよ 見てしまった、ずっとずっと見せてはくれなかった彼の免許証を。 そこには私の知らない顔をした彼。今から2年くらい前の、私の知らない彼の顔。 そういえば、荒れていた、と以前聞いたことがある。きっとその頃の写真なのだろう。 私の知っている彼の顔よりも、随分と鋭くキツイ、冷たい印象を受ける眼差しをしていた。 だけど、ショックを受けたのは写真なんかじゃない。免許証に記された彼の本籍を見てだ。 住所は今と同じだが、本籍は『彼女』と暮らした家のまま。 勝手に見たくせにショックを受けた。 「面倒臭かった、忘れてたなんていう理由じゃないよね。 だって、キミの性格上、引っ越したら直ぐに本籍を現住所に移しそうだもんね。 本籍を向こうのままにしているのは、亡くなった彼女のことを忘れないため?」 頑なに彼が見せようとしなかった理由は、 写真の写りが悪いから、じゃなくてそこにあるような気がした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
September 29, 2005 12:52:03 PM
[sweet days] カテゴリの最新記事
|