『切れない糸』坂木司著
切れない糸2,切れない糸俺、新井和也。家は商店街によくある町のクリーニング屋さ。新井と洗いをかけた「アライクリーニング店」が屋号。年じゅうアイロンの蒸気に包まれて育った俺は、超寒がりときている。大学卒業をひかえたある日、親父が急死した。就職も決まっていない俺は、しかたなく家業を継ぐことに。おおざっぱな性格の母親、アイロン職人のシゲさん、そして長年パートとして店を盛り立ててくれている松竹梅トリオの松岡さん、竹田さん、梅本さんに助けられ、新たな生活がスタートしたんだ。目下のところクリーニング品の集荷が、俺の主な仕事。毎日、お得意さんの家を訪ねては、衣類を預かってくるというわけ。ところが、あるお得意さんから預かった衣類は…。坂木さんのお話は根っからの悪人が出て来なくて安心して読める優しい日常のミステリです。ミステリだけに関して言うとつっこみどころもあり、完成度が高いかというとうーんという感じもあるけど、それよりも純粋で真っ直ぐな登場人物の人柄とエピソードに惹かれて読んでいます。今回も主人公の和也がとてもいいです。日常の何気ない本当に小さなミステリを解きながら、人と人のつながりや優しさや暖かさなどが伝わってきます。特に年配の方を魅力的に描くのが上手いなあと思いました。今回はシゲさんがとても素敵。こんな商店街があったら本当にいいなあって思います。装丁もとてもいいと思います。『切れない糸』がなんなのかは最後の最後に明らかになるけれどその意味を知ってまた胸が熱くなったりします。