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カテゴリ:山の雑談
今日、私がかつて読書について経験したことと、
きわめて似ている、というより、 そっくりな体験を持っている人に会い、 ちょっと驚きました。 私が山を登るようになったきっかけは、 高校2年生のときに、井上靖の「氷壁」を読んだことです。 本を読んでいて、残りのページが次第に薄くなっていくことが、 初めて悲しく感じられました。 読了してからしばらくは放心状態でした。 それから間もなく、喪失感でおしつぶされそうになりました。 こんなに深い感銘を受ける本には、 一生のうちに二度と出会うことはないだろうと直感したのです。 そしてそれは当たっていました。 それから20年が経った一昨年、私は「氷壁」のヒロインである、 小坂かおるのモデル、 と言われる女性を主人公にした本を書くことになり、 あのとき以来初めて「氷壁」を再読しました。 そして、あれっ、こんなものだったのかと、 ちっとも感動しない自分にびっくりしたのです。 先日、週に2日通っている「ヤマケイ」の内勤スタッフの女性が 「二人のアキラ、美枝子の山」を私のところに持ってこられ、 それにサインしました。 長野に住むお母様にプレゼントするとのことでした。 それから10日ほど経った今日、その人と話をしていて、 「氷壁」についてまったく同じ体験をしていることを知ったのです。 1ページづつ本が薄くなっていくことの、苦しさ。 読み終わったあとの上気と、それに続く、寂寥。 私の本がきっかけで、 その人も、20年ぶりに「氷壁」を手に取ったといいます。 そして、動かない自分の心が、不思議に思えたそうです。 ああ、同じ、 そう、そう、 私も、いっしょ、 うん、まったく、そのとおり、 と、変わりばんこに相槌を打ちました。 落ち着くところは、年とともに変わっていく感受性、 というあたりなのですが、 それにも増して、 一冊の本に、まったく同じ履歴を持つ人がいるのだ、 ということに小さく興奮した一日でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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