秒速5センチメートル
1週間前、何気なくTVを観てたら未だかつて見たことのない美しすぎる映像に魅せられて久しぶりにアニメーション映画を最後まで観てしまった。「秒速5センチメートル」という(第1話「桜花抄」第2話「コスモナウト」第3話「秒速5センチメートル」)3連作アニメーション映画。小学生のときに出会い、特別な感情を抱きながらも中学入学を目前にして両親の仕事の都合で東京と栃木とに離れ離れになってしまった男女の遠距離恋愛、そしてその後13年という年月のなかで主人公の心と、その心とは裏腹に時だけが前へ前へと進んでゆく時間の流れが描かれています。第1話「桜花抄」では、栃木へ引っ越してしまった明里から半年後に手紙が届き、二人の文通が始まる。想いはつのり、中学生の貴樹は彼女に会いに栃木へ行くことになったが、その日は予定外の大雪、動かぬ電車、そして想いを綴った手紙が吹雪に吹き飛ばされる。約束の時間はとおく過ぎ去り、駅に降り立つといつまでも彼女は待ち続けていた。雪の上に残る二人の足跡、凍りつく裸のサクラの木の下ではじめてのくちづけ。電車ごしの別れ、愛おしく永遠を感じる少女と若くして出会ってしまった主人公は、彼女を守れるだけの力が欲しいと強く願う。映像の美しさと寡黙な主人公の心のなかのセリフがまるで小説の一説のよう。第2話「コスモナウト」では貴樹が種子島へ転居、二人は再び離れ離れになり、手紙のやり取りもしばらく続くが次第になくなり気持ちを残したまままた時だけが過ぎてゆく。この第2話の舞台は種子島、主人公の貴樹に想いを寄せる同級生のカナエが、彼の心のなかにずっといる誰かを感じ、近くにいてもいつも遠くを見ている彼に最後まで想いを伝えることが出来ず、とても切なくなります。誰かのことを想い続ける人の心には触れることも近づくことも出来ず、傷付くのが怖い、そんなカナエの女心にとても共感しました。第1話の雪景色からこの種子島の真夏の南国の風景への切り替わりがまた時が経ち、季節も移り変わっていく様子が伝わってきます。ヒグラシの鳴き声や波がカナエの恋心をいっそう儚く、そして情熱的に演出していきます。ロケットが飛び立ち空を真っ二つに分断する映像は圧巻。観終わって一週間経った今ではまるで自分の夏の遠い思い出のように私の心にも焼き付いてしまっています。また、この高校生の貴樹君は文武両道、孤独な感じもするが明るいカナエがいつもそばにいるためか無口なのが引き立ってクールでとても格好いい。ラスト第3話「秒速5センチメートル」はほぼそれまでの回想シーンと26歳になった貴樹と明里の結末が描かれています。この映画のタイトル「秒速5センチメートル」とは、作品冒頭で小学生の明里が貴樹に話したセリフ、「サクラの花びらが落ちるスピード」のこと。映画のフレーズに貴樹の「どれほどの速さで生きれば 君にまた会えるのか」という想いが書かれていますが、時間と距離を式にしてサクラの花びらが落ちるスピードは容易に出せるけれど恋愛は式にしても答えは出るわけではなく。。。ロマンティックで夢見がちな貴樹とは違い、明里は過去の想い出を大切にし、現実に生き、そして結婚していく。この映画の結末は賛否両論あると思うけれど、再び二人が出会い抱き合う、みたいなラストが果たしてハッピーエンドなのかどうか?最後に貴樹が魅せたあの表情がハッピーエンドなのだろうと、私は解釈したい。映画を観終えて思ったことは、本当に映像がリアルで写真を見ている感じ。過ぎ去った時々のアルバムをめくっているようで、山崎まさよしの「one more time, one more chance」がストーリーと映像に絶妙にからんできて、強烈な余韻が残りました。・・・ため息(笑)【YOUTUBE】 秒速5センチメートル ラスト