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2016.08.11
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カテゴリ:地図
岡山市の就実大学で開催されていた日本地図学会の定期大会はこの日が最終日。
午前中は2会場に分けて通常の発表、午後は特別講演をはさんでシンポジウムが行われた。

午前中は第4開場で行われた発表を聴講した。

首都大学東京大学院の荒堀智彦氏は疾病地図による感染症流行状況の可視化について発表。
新興・再興感染症の対策として感染症サーベイランスと地図による可視化が重要として、海外で行われている参加型サーベイランスの紹介と日本の現状について整理した。
その上で今後に向けて、オリジナルの疾病地図作製とそれを活用したリスクコミュニケーションを課題とし、地図の表現と空間スケールのあり方をポイントとして挙げた。

同じく首都大学東京大学院の田中雅大氏は、移動支援として視覚障害者向けの地理空間情報の特徴について、晴眼者用と視覚障害者用の道案内図を比較することで明確にして、指標ごとに分析を試みた。
晴眼者用道案内図はサーベイマップが多いのに対して、視覚障害者用はルートマップが多く、パスを中心に、伝い歩きに必要なエッジ(ガードレール、壁、フェンスなど)、空間構造をつかむためのディストリクト(線路や大通り、高架橋など)が表示されていることが多いことが明らかになった。

福岡教育大の黒木貴一氏は広島土砂災害について、被害の実態とその要因となる要素を分析して、現行のハザードマップと比較した。
その結果DEMの分解能により評価の制約がある点や、上流と下流における被害の違い、宅地の開発時期による被害状況の違いなどが明らかになった。
興味深いのは特定の開発年次について被害が集中している点で、開発が最後までできなかった地形条件を持つ場所であることが推測され、こうした情報をハザードマップに掲載することを提案した。

後半は自分が座長を務めた。

東京大学の中村和彦氏は東京大学北海道演習林における天然林管理について発表した。
天然林の管理が人工林と異なる点や、天然林の管理は伝統知になりやすく、継承が難しい点を指摘した。
特に択伐(非皆伐の抜き伐り方式)を行う上での林種区分の設定や現地検討会の議事録などの知識ベース構築が重要であるとして、特に地図活用という観点から提言した。

国土交通省国土政策局の山田美隆氏は、同局が実施している国土調査法における土地履歴調査について報告した。
複数の委員会を設置して進めるプロセスや、成果の公開と活用などについて解説し、今後の展望として未着手地域への対応や、時代に合わせた新しい国土調査の検討などにも言及した。

立正大学の鈴木厚志氏は韓国における地理空間情報の整備や運用、地図・GIS教育の現状について報告した。
日本に先駆けて法律を整備していた点や、活用だけでなく管理にも重点が置かれている点(主として安全保障上の視点から)、産業として空間情報の構築販売システム開発が多くサービス系が少ない点、中小・零細企業が中心となっている点などを特徴として挙げた。
教育においては、日本と異なり特性化高校や特性化大学院があり、GISの教育課程が充実している点が興味深かった。

首都大学東京の若林芳樹氏は、イギリスにおける近年の地図学の動向について報告した。
イギリス地図学会の設立とその後の動向を中心に、GISへの取組、研究テーマの特徴、SoC(地図学者協会)による地図教育の充実、大英図書館を中心としたライブラリの充実などの現状について解説した。

午後は重見之雄先生(元吉備国際大学教授)による特別講演「塩田研究のための地図利用」から。
さまざまな塩田の方式や、旧版地形図に見る瀬戸内海の塩田の分布やその特徴、塩田の利益分配、所有者や小作者の違いや生活ぶりなどさまざまな角度から紹介した。
塩田開発の裏側の興味深い話がたくさん聞くことができた。

続いて展示されたいた地図から投票で決められる優秀地図の表彰があった。
表彰されたのは東京地図研究社の熊本城地図、国土地理院の伊勢志摩サミット地図、そして北海道地図の阿蘇ジオパークの地図の3点だった。

最後はIMYシンポジウム「日本地図学会の10年後、30年後、100年後を語る」。
有川正俊日本地図学会常任委員長の呼びかけて今尾恵介氏、鈴木純子氏、佐藤潤氏、新田聡氏、そして私も参加させて頂いた。それぞれの視点から話題提供をしてフロアから意見をもらう形で進行した。

有川氏から趣旨説明があった後、今尾氏から地図利用者の環境や意識の変化を基に、地図のあり方が変わってきている点を踏まえつつも、人間の領域の確保が重要である点を強調した。
鈴木氏は地図をめぐるさまざまな状況の変化を前提としつつも、変化しない部分として空間の可視化、人間の空間認識に関わる媒体である点を指摘するとともに、地図には記録としての重要性がある点にも言及、しっかりしたフィロソフィーを表現することを提言した。

佐藤氏は学会編集委員長として査読論文が少ない点を危惧しつつも、非専門家が多いのは社会との接点やダイバーシティという観点で強みがある点を挙げて、社会貢献のための発信が必要とした。
旅客機や映像提供手段、コミュニケーション手段の盛衰を例にとりながら、地図は廃れるわけではなく、数十年単位のサイクルを繰り返しながら変化していくことを展望した。

新田氏はAIの隆盛で地図の仕事がなくなるのではという危機感を前提に、地図づくりの技術や研究を極める(地図をどう使うのか、地図から何が分かるのか、地図から何を学べるのか等)ことをしつつ、柔軟に変化に対応していくことも重要として、発信する力や伝える力を備えた地図のエバンジェリストになる必要性を訴えた。
私の話は地図が従来の表現中心のあり方にとどまらず、地理空間情報のインターフェイスとして領域を広げていることをベースに、地図学会のプレゼンスを高めることで多くの分野の研修者を巻き込んでいくことが必要である点、専門家として地図に関する社会の疑問や誤解に応えていくこと、積極的な発信を行うことを提案した。

3日間にわたる学会定期大会もこれで終了。
会場となった就実大学にも大変お世話になりました。






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Last updated  2016.08.14 03:43:28
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