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カテゴリ:災害・防災
日本災害情報学会は10月22・23日の両日、東京都世田谷区の日本大学文理学部において、第18回学会大会を開催した。
ここ数年災害情報の伝達のあり方については社会の関心も大きく、大会前日に鳥取県中部において最大震度6弱の地震が発生したこともあり、注目が集まる中での開催となった。 聴講したセッションのみだがレポートする。 「火山」セッション 2014年の御嶽山噴火や2015年の箱根火山の噴火、さらには2016年10月には阿蘇山の噴火もあり、火山災害に関する社会の関心は高まっている中、4編の発表があった。 最初は鹿児島大学の真木雅之氏による「大規模火山噴火時におけるデジタルサイネージの活用」。デジタルサイネージを防災啓発に活用しようという取組。 鹿児島大学のキャンパス内で運用している「キャンパスウェザー」(サイネージでXRAINの情報等を配信)の仕組みを応用して、噴火警戒レベルに応じたコンテンツを配信しようというもの。 平時は性的情報、噴火時には降灰分布や動的ハザードマップ、避難情報等、さらに収束時には被害状況や交通・ライフライン情報などが案として挙げられた。 不特定多数が同時に見られるという利点はあるが、どこに設置するのか等議論すべき点も多い。 続いて東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センターの定池祐季氏による「有珠山周辺地域における防災教育の変遷」。 噴火の頻度が高いことから継続的に防災教育が実践されており、その主体や対象がどのように変化し、広がりを見せてきたかについて報告した。 継続的な取組の中で育てられる側が育てる側へと変わっていきたことは特筆すべきで、人材育成の重要性を地域で認識していることの表れともいえる。 今後の人材育成はジオパークを軸に行っていくべきとの提言も。 国際航業の稲葉千秋氏は「活火山であることへの留意について」と題して、北海道の雌阿寒岳を例に、火山防災のあり方へ疑問を投げかけた。 噴火警戒レベルが一般に浸透していないことや、地元の火山防災協議会との齟齬などを指摘、また火山減災においてコンサルタントの役割の大きさを強調した。 横浜国立大学環境情報研究院の竹田宜人氏は、「平成27年箱根山火山活動における『風評被害』の実態について」と題して、宿泊客のキャンセル行動と過熱報道の関係について検証した。 調査によればキャンセル行動は噴火直後にピークがあり、過熱報道以前であることから必ずしも風評被害とは呼べず、むしろ宿泊客のリスク管理の結果であるという見方を示した。 「災害文化」セッション 最初は明治大学情報コミュニケーション学部の小林秀行氏による「復興スローガンは何を表そうとしたのか-東日本大震災における復興計画を事例として-」。 復興スローガンの定義とその採用状況、特に市町村が復興計画に記載する公的なスローガンについて分析した。 津波被災地では自然と海の共生のようなものが、原発被災地では未来志向の抽象的なものが目立つことを指摘、また動詞より名詞が多いことにも着目した。 国際航業の安本真也氏は「『パニック映画』をめぐる映画と社会の関係性」として、大規模災害がパニック映画のモチーフになりやすいという考え方を基に、パニック映画という呼称の変遷を社会への定着という観点から分析した。 関西大学社会安全学部の城下英行氏は、「日常生活の中に埋め込まれた防災の発見」として、防災を声高にうたう「The防災」ではなく、日常の中で知らず知らずのうちに防災行動を行っている事例を検証した。 もともと生活が不便なネパールの暮らしが防災的に理に適っていることを手がかりに、日本における時間軸の生活比較や、海外との生活比較の中で防災行動を考察した。 「熊本地震(1)」セッション パスコの本田禎人氏は「平成28 年熊本地震での被災建物判読を目的としたブルーシート被覆建物の自動抽出」として、発災後に被災建物数を早期に知る必要があることから、「被害があるが人が住める=一部損壊」と仮定してブルーシートが掛けられた建物を航空写真と基盤地図情報の建物ポリゴンからHSV色空間を用いて自動抽出する方法を提案した。 これに対してフロアからは「ブルーシートを一部損壊と決めてしまうのは乱暴」「撮影時期にブルーシートが行きわたっていない可能性がある」などの意見が出された。 防災科学技術研究所社会防災システム研究部門の佐藤良太氏からは「行政機関間における避難所情報の伝達と集約―平成28 年熊本地震を事例として―」として、避難所の情報共有とその利活用支援における問題点を報告した。 管轄部署の把握が困難であった点や提供交渉、内容精査などの課題に加え、分布図作成にあたり、避難所名称の不統一やデータのフィールドの不統一、さらには部署間での重複整備などを問題として挙げた。 サーベイリサーチセンターの藁谷峻太郎氏は「熊本地震における益城町内避難所調査の報告」として、前震の際の行動とその後の避難における状況、通信の状態などについて調査結果を報告した。 前震時は多くの人が家の中におり、行動としては「外に飛び出す」が最も多かった。 引き続く地震の中での避難については「留まることが危険」との判断が避難行動につながったこと、通信においてはSNSが強かったことなどが挙げられた。 東京海上日動リスクコンサルティングの指田朝久氏は、「熊本地震被害にみる東日本大震災報道であまり語られてこなかった地震動による建物被害と火災」として、東日本大震災の被害の中で津波による割合があまりにも大きかったことから地震動や火災による被害が語られていないことに言及、庁舎の被災においては22市町村が地震動によるものであった点を指摘した。 とりわけ企業の活動においては地震動による被害で停止するケースが多いことから、日本全国を対象にした災害対応の観点から、地震動や火災についても正しく考慮すべきと訴えた。 「歴史と風化」セッション 防災科学技術研究所社会防災システム研究領域の鈴木比奈子氏は「過去1600 年間の災害事例を可視化する―災害年表マップの公開―」として、防災科研が公開した「災害年表マップ」について、その基となる「災害事例データベース」と併せて紹介した。 地図化したことにより、災害の面的な広がりや前後の災害との関連性が分かりやすくなったこと、課題として発生地点の情報が欲しい、疎密が示せない、スマホに非対応である点が挙げられた。 首都大学東京大学教育センターの根元裕樹氏は「災害伝承の地図化とその共有のためのシステム開発」として、消防庁の全国災害伝承情報から災害伝承を時空間情報としてGISデータ化する試みを紹介した。 根元氏はこうした伝承は専門家による取捨選択がされていない生のものであることに価値があるとした一方、フロアからは消防庁のデータベースの精度についての疑問が示された。 愛知工業大学地域防災研究センターの横田崇氏は「災害意識の風化に関する数理的考察-災害意識の風化の数理モデル-」として、関心の低下を数式で示す試みについて発表した。 風化(危険バイアスの低下)が避難率の低下に関係するとして、時系列で新聞の記事量の変化のモデルを考察し、余震の減衰や放射性崩壊などとの類似点を挙げた。 名古屋大学減災連携研究センターの武村雅之氏は、「関東大震災と教育:石碑調査で気づいたこと」として、比較的被害が少なかった大和村(現大和市)において記念植樹が盛んに行われたことについて、その要因を探った。 その中で渋沢栄一の天譴論や大正天皇の詔書などの影響により、「人類の相愛協互助の精神」が重視されたことに言及し、防災教育に「生き方」が反映された可能性を示した。 生憎2日目に参加できず初日だけのレポートになってしまった。 2日目にどうしても見たい発表がいくつかあっただけに残念。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.10.24 19:23:19
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