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カテゴリ:地図
新宿区の測量年金会館で地図調製技術協会(地調協)の技術シンポジウムを開催した。
登壇者の皆さん、そしてご参加頂いた皆さん、ありがとうございました。 今年のテーマは「進化する路線図 ~乗り換え検索サービス全盛時代の路線図の役割とは~」とうことで、バラエティに富んだパネリストがそれぞれの視点から路線図のあり方について語り、議論した。 基調講演は国土地理院地理空間情報部長の佐藤潤さんの「地理院地図とその利用」。 国土地理院自体は直接路線図の製作には関わっていないのだが、地理院地図の紹介の中で鉄道開通時の地図の更新についてや、タイムリーな留萌本線の留萌~増毛間の地図の旗竿(鉄道記号)がその日で消えたことなど、鉄道がらみの事例を紹介した。 また、私見として、路線図においては統一性(事業者ごとでなく利用者目線で)とデザイン(アートへの関与)が重要として、「人間の感性を守って欲しい」と指摘した。 地図研究家としてお馴染の今尾恵介さんは、「明治・大正の「電車案内」から現代の路線図まで~来るべき路線図への手がかりを求めて~」として、さまざまな路線図を紹介しながら、ネットワーク型の路線図と運行系統図、縮尺の有無や路線図の要素などについて分かりやすく言及した。 過去の会社別路線図ではライバル他社を矮小して表現している例なども挙げながら、デフォルメが何のためにあるのか、スマホの登場が路線図にどういう影響を与えたのか、そして路線図を通じて都市の形をしることができる点などにも触れ、技術は進化しても人間の頭は変わっておらず、アナログな感覚は残していく必要があるとした。 東京大学生産技術研究所の伊藤昌毅さんは、「公共交通への理解を深め利用を促進するスマートフォンアプリの可能性」として、乗り換え案内アプリで求められているのはアプリの開発ではなく「移動のユーザーインターフェース」であると指摘し、情報と行動のギャップを如何に埋めていくのかが大事であると語った。 そのためには事業者がオープンデータとしてデータを提供することも含めた、高精度な公共交通データの整備が必要であることを示唆、また路線図については経路の大局感を伝えるためと周辺視野を広げ行動の自由度を高める上で、乗り換えアプリ時代であっても必要であると語った。 午後からは主として地調協の会員各社からの事例紹介で、ヴァル研究所の篠原徳隆さんは 「路線図のGoogle Mapsを目指して」として、同社が開発した駅すぱあと路線図について紹介した。 その開発過程において、(主として都市部で)人が駅に対して帰属意識を持つことや、駅や路線を媒介して空間認識を行っていることに気づいた経緯から、路線図には地図とは異なる情報伝達の価値があるとして、プラットフォームとしてユーザーで共有する可能性についても話した。 昭文社の市川智教さんは「時代と共に変化する路線図」として、自社で発行している路線図を中心に時代とともに求められている要件や、運転系統などが変わってきていることで路線図そのものも変化している点を説明した。 さらに路線図にはまだ改良の余地があり、見る楽しさを付加価値とすることや、そのためにはデザインが重要な要素であることなどにも言及した。 地理情報開発の廣田晴俊さんは 「海外路線図考」として、世界のさまざまな路線図を紹介しながら、その作成上の問題点などについて語った。 外国語の場合縦書きが使えないことから注記に日本語ほどの自由度がないことなどに触れつつも、例えば路線図の現地の危険情報のレベルを表現するなど付加価値の可能性についても言及した。 地調協の久保田秀徳さんは「路線図の機能・表現・制作」として、路線図を作成するうえでの留意事項について述べた。 路線と系統の捉え方や乗り換え駅の解釈、英文表記の揺れといった問題点に触れた上で、今後の路線図においてはインタラクティビティの追求と、さまざまな表現に対応するためのデータの構造化の重要性についても指摘した。 最後はパネリスト(佐藤さんと今尾さんは参加できなかった)とフロアも含めて路線図についての意見交換会を行った。 参加者からも鋭い質問や意見が出ており、路線図への関心の高さが示された会になった。 路線図の進化という意味では、乗り換え案内との役割分担のあり方や、公共交通の利用促進の中で情報がどういう意味を持つか、路線図がそれを補間することができるのかなど突っ込んだ議論もあった。 とはいえ、アプローチが多様であるがゆえ、議論は尽きることがない。 それぞれの参加者が現状にもやもや感をもちながらも、路線図というコンテンツの可能性は示せたかもしれない。 業団体ということで、路線図を「作る立場」の人間が多いため、こうした会は意義がある。 今後も継続的に議論を深めながら路線図にさまざまな価値が見出すことができればこの会を開催した意味が出てくるのではないかと感じた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.12.07 03:04:19
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