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シネマに賭けた青春「夢を追いかけた日々」の想い出

シネマに賭けた青春「夢を追いかけた日々」の想い出

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無名の新人女優がアカデミー主演女優賞を獲得、ショート・カットのヘップバーン・カットは日本女性を虜にした。これは世界中で大ヒットを飛ばした記念碑的名作である。

監督はウィリアム・ワイラー、主演オードリー・ヘップバーン、グレゴリー・ペック、カメラマン役のエディ・アルバートがいい味を出している。1953年製作のモノクロ作品で、撮影の全てはローマで行われた。

アン王女とジョーが歩いた“永遠の古都“ローマの名所が満載である。観光映画として見ても面白い。

映画は某国のアン王女が親善旅行で各国を廻りローマに到着、大使館でレセプションを行うところから始まる。王女にとってなんとも辛い旅であることを分からせてくれる。お相手するのは老人や貴族ばかりでつまらない。部屋に戻った王女は疲れでヒステリー症状になり、付き添いの医師から睡眠薬の注射をされる。

王女は外の賑やかな夜景が気になって仕方がない。こっそりベッドを抜け出し、大使館に商用で入っていた軽三輪トラックの荷台に乗り込んで大使館から脱出する。道を渡る人を避けるためトラックが止まったとき、王女は車から飛び降りる。そして、フラフラ夜の街を歩き出す。

一方、ジョーは新聞記者仲間とポーカーをやっていたが、明日は王女の会見に出るからと帰って行く。ジョーの連れのアービングは「もう一勝負やるか」と残る。その帰路、ジョーが道端で寝ている王女と出会う下りが面白い。睡眠薬が効いてトンチカンな受け答えをする王女を、ジョーは酒に酔っていると勘違い、タクシーを呼んで送ろうとする。「どこに住んでいる?」と聞くジョーに「コロシアム」と答える王女。彼は仕方なく自分の安アパートに連れて帰る。

翌朝、目覚めたジョーは12時を回っているのに気がつきがっくり。11時45分から王女の共同記者会見には間に合わず、出社する。編集長は「今頃まで何をしていた?」と聞く。「王女の会見に出ていた」と答えるジョー。「フーン、会見ねえ・・・。で、王女はどんな服装をしていた?」「服装・・・(つまる)」。アン王女の会見は王女が高熱のために中止と知っていて、ジョーに色々質問していじめる編集長が面白い。挙句、新聞で王女の顔写真を見るや、特ダネを取る賭けをするのだ。

家に飛んで帰ったジョーはアン王女がまだ眠っているのを見てホッとする。新聞を手に写真と見比べるジョー、そばに屈み込んで「王女さま」と耳元に語りかける。「はい、何ですか」と王女が夢うつつで答える。

完全に目覚めたアン王女はジョーと会う。
「こんにちは」とアン。
「君の名前は何て云うの?」
「私は・・・アーニャ」
「こんにちは。アーニャ」
アンはジョーに促され浴室で着替えをする。その間、ジョーはアービングに電話をして「大きな声で云えないが大変な特ダネなんだ。写真を頼みたい」という。

王女はジョーにお別れの挨拶をして外へ出て行く。こっそり後をつけて行くジョー。アンは美容室に入る。トレヴィの泉のすぐ傍だ。ここでかの有名なヘップバーン・カットの誕生だ。サンピエトロ広場でアイスクリームを買って舐めながら歩く王女。つけて来たジョーが階段を下りてきて、アンに偶然出会ったようなふりをして見せる。
「やあ、君か。(と見る)」
「似合って?(と後ろを見せる)」
「とてもね」
「あなたに白状しないといけないことがあるわ。実は昨夜、学校を逃げだしたの。ほんの1,2時間のつもりだったのが、睡眠薬が効いて」
「フーン、そうだったのか」
「そろそろ帰らなきゃ。タクシーで帰るわ」
「もう少し遊んでからにしたまえ」
「ではあと1時間・・・」
「思い切って一日中遊ぶんだ」
「前から憧れてたことをしたいわ。」
「どんな?」
「何でも気が向くままにしたいの、一日中」
「髪をきるようなこと?」
「カフェに入ったり、ウインドー・ショッピングをしたり、雨の中を歩いたり、楽しみたいの。冒険も少し・・・、下らないと思うでしょ」
「素晴らしい、よし、では一緒に遊んで回ろう。最初はカフェだ」
ジョーはアンの手を取って立ち上がる。

「凄い特ダネだ。5000ドルにはなる。6:4でどうだ」
「悪くない話だ」とアービングは話しに乗る。

ここからは名所巡りになる。まずはコロシアムを見学、ライター型カメラで王女を写真に収めるアービング。次はアンをスクーターの後ろに乗せて、ローマの町を走るジョー。その後を無蓋者で追いかけながら写真を撮るアービング。

『真実の口』。ジョーが説明する。
「真実の口だ。嘘つきが手を入れるとーー咬まれるという言い伝えがある」
「恐いのね」
「やってごらん」
おそるおそる手を口に入れかけるアン。ライターを構えるアービング。アン、慌てて口から手を離し、「あなたが」とジョーに言う。「いいとも」そういって手を口に持って行く。じっと見守るアンの真剣な顔。
ジョーが口の奥まで手を入れる、途端、ジョーが叫ぶ。「ウワッ」アンがジョーの体にすがりつく。ジョー、抜いた手をアンに見せる。手首が無い。絶叫するアン。ジョーは背広の袖から手を出す。アンはジョーの胸を両手で叩きながら言う。
「ひどいわ。騙したのね」
ジョーはアンを抱くようにしていう。
「ごめんよ。大丈夫?」
「びっくりした」
「次、行こう」とジョー。

その夜、ジョーとアンは船上のパーティ会場へやって来る。ダンスをする二人。アンは目を閉じてジョーに抱かれて踊る。曲が終わる。
「ブラッドリーさん、何故私に一日中お付き合いしてくさったの?」
「何となくだ」
「本当にご親切ね」
「それほどでも」
「私のためにこんなにまで」
「・・・・・(答えられない)バーで何か飲もう」
アンと連れ立ってバーへ。そこで美容師のマリオと会う。アンを踊りに誘うマリオ、

秘密警察のボスが王女にダンスの相手を求める。踊りながら耳元で囁く。
「王女さま、お帰りを。橋の上に車が待っています」
「人違いです」
だが、部下たちが強引に連れ出そうとする。ジョーを必死で呼ぶアン。ジョーが駆けつけ秘密警察官との間で乱闘になる。カメラを手に椅子の上でギターを振り回しているアンの姿を狙うアービング。マリオも乱闘に加わる。

ジョーのアパートに帰って来た二人、服が乾くまでの会話。ニュースが聞こえてくる。国民が王女の病状を憂いているとの報道だ。アン、ラジオのスイッチをきる。
「聞きたくない・・・・・もう帰らなければ(泣きながらジョーに縋りつく)」
「(優しく抱きながら)話がある・・・」
「云わないで、なにも」
抱き合い頬を摺り寄せる二人。二人それぞれの思いが痛いほど伝わってくる名場面だ。

アンを車で送って行くジョー。
「次の角で止めて」
「ここ?」と車を止める。
そこは大使館の入り口が見える場所だ。じっと門を見詰める王女。
「ここで降ります。私はその先の角を曲がります。あなたは、このまま帰って。私の行き先を見ないと約束して。決して振り返らないでね、私もそうするわ」
「・・・分かった」
「お別れの挨拶も・・・、(涙ぐみ)云えないわ」
「云わなくていい」
アン、ジョーを見詰めていたが、ひしと縋りつく。キスを交わす二人。別れを惜しむ長い抱擁。アンの頬を流れ落ちる熱い涙。
やがてアンは車から降りる。そして、振り返ることなく角を曲がって行く。じっと見送ったジョー、やがて車を発進させる。

翌日、記者会見場である。アンはジョーとアービングに気づいてはっとなる。ジョーはそれとなく会見の中で心配させないように話をする。

「記者の皆さんにご挨拶を」とアンがいう。
そして、最前列に立つ記者一人一人と挨拶を交わして行く。アービングの番になった。
二人は握手を交わし、アービングはポケットから紙袋を取り出して、
「ローマご訪問の記念写真をお受け取り下さい」とアンに手渡す。
開けて見るアン。乱闘の場面である。手にしたギターを秘密警察官に叩きつけているショット。
「本当にありがとう」
そして、ジョーの番になった。万感の思いを込めて、しばし見つめ合う二人。ジョーに手を差し出すアン。握り返すジョー。
「お目にかかれて嬉しいです」とアンがいう。

最後の別れ、言葉の無い顔の表情だけの演技だ。アンは踵を戻して奥へ入って行く。会見は終わったのだ。一人になっても立ち尽くしているジョー。やがて静かに会見場を後にする。

こうして有り得ないお伽話は終了した。有り得ないお話を有り得るお話として、感動物語に仕上げたワイラーの手腕に感服。

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Last updated  2006.11.22 20:24:22
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